第13夜 気づいてしまった感情 Ⅰ

ザザッ、ザザッ、ザザッ、ザザッ……。湿った森の中、リズムの良い馬の足音だけが森の中に木霊している。俺は土朗と共に咲真家への道を急いでいる。風朗は無事だろうか、炎朗兄様はいったい何を考えているんだ。心の中の不安を奥に押し込めながら、大切な弟とあの子たちのことを考える。三瀬帰先輩、寿々音先輩、青樹、緑樹、奇炎、そして冥朗。先程、賊の目撃情報が咲真家であり、ボーオ村の生き残り6名が暴れているとの情報があった。そして、冥朗達の目撃情報も……。そんなことを考えていると、土朗の馬の脚が止まる。


「……?どうしたんだ、土朗」

「………………」


土朗からの返事は無かった。だが突如として俺の馬が暴れだした。


「どうしたんだ、落ち着け」

「……兄さま、ごめんなさい」


馬をなだめている俺に対して、そう言って振り向いてくる土朗の額には……


「土朗、お前……」

「我々の野望のために死んでください」


黒百合の紋章が浮かび上がっていた。王家にかけられた黒百合の呪い。黒百合は2つの花言葉があって、1つ目は「恋」もう1つは「呪い」だ。



***



呪いの原点は遥か昔、ニージオ帝国の王子、青年佐布サフは宮廷魔法術師の少女ことランと禁忌の恋に落ちた。そこからが全ての、地獄の始まりであった。佐布は蘭よりも2歳年上で、17歳であったと言われている。そして佐布には婚約者がいた。そして2人は結婚した…………、ならばどれだけ良かったことだろうか。佐布の婚約者であり、インバシオン王国第2皇女のロベリア。このロベリアはニージオ帝国、王城の使用人や王家、ましてや婚約者である佐布にさえ嫌われていた。我が儘な性格に国のお金での豪遊、そして使用人達への虐め等々、色々とあげるとキリがないらしかった。まるで俺の今の婚約者のような奴だ。それはさておき勿論、王城の使用人や王妃は2人の関係を少なくとも悪くは思ってはいなかったらしい。国王もインバシオン王国との関係は大事にしたかったが、佐布が嫌だと譲らなかったようで表面上は折れたらしい。ロベリアともう1人を除いては……。我慢の限界が来たのかロベリアはあろうことか、蘭を殺害しようと目論んだのだ。失敗すると思われていたそれは、黒狐一族達によって成功させられた。その日、蘭が死んだ日は赤い、血のような色をした月だったという。ダンスホールのテラスに呼び出された蘭は自分の梟のランを連れ、ロベリアと相対した。そして何も為せずに、殺された。いや、抵抗しなかった。罵倒され、暴力を振るわれ、嘲笑われて、それでも蘭は泣かずに耐えたと言う。それが気に障ったのか、ロベリア自らが手を下したと言う。梟の藍は何も能力が無いと判断されたのか、藍は放された。そして蘭の故郷であるボーオ村に遺言を伝えに飛んでいった。それを知らずに佐布は、蘭が行方不明になったとだけ伝えられた。蘭が死んだことを知っているのはロベリアと黒狐、そして梟の藍とボーオ村の住民だけだった。蘭が死んでから1年後、ちょうど佐布の18歳の誕生日の日であった。成人して、正式な国の王としての戴冠式に優秀な魔術師一族としてボーオ村の住人も招待されていたのだ。これが血塗られた戴冠式の始まりであった。

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