第11夜 Unwilling Villain

まだ水朗にお礼を伝えていない。そればかりか水朗を挑発するような行動をとってしまっていた。でもこれは、感謝は伝えられないのだろう。僕らは今から…………悪役になるのだから。僕の底から、醜いはずの感情が溢れてくる。


『ほら、おいでおいで』


ある日見た夢の中では、あれの名前を知っていた。いやもうとっくに知っていた。知っていながら見ないフリをしていた。分かっていた、分かっていたんだ……。


『こわしたいんでしょ?』


ずっとずっと、この醜いと思っていた感情の人格に蓋をしていた。


「けど……」


もう吹っ切れてしまった。いや、我慢するのをやめた。だから、おいで。


「もう1人の、あの頃のぼく」

『やっと……、やっと会えたね』


暗い僕の意識の中で、僕とぼくは抱きしめ合う。これまでの空白の時間を埋めるように、互いの不安を消すように。


「恨んでる?」

『ううん、全然。むしろ呼んでくれて、凄く嬉しいんだよ』


憎しみと後悔に堕ちた昔のぼく。それは僕のフクロウの冥と一緒に封印したはずだった。


「ごめんね、2人をずっと暗闇に閉じ込めたままで」

『大丈夫、冥と一緒だったから。ね?冥』

「ホーホホ(そうだよ)」


そんな2人の言葉に涙が零れ落ちる。それは黒く、どこまでも深いような漆黒色。他の5人も僕と同じで、昔の自分とフクロウを解放しているはず。これから悲劇が始まる。……僕達の、僕達による鏖殺という名の悲劇、そして僕達と村の皆のための復讐劇。


「皆のところへ行こっか、もう1人のぼく」

『うん、もう1人の僕』


暗い異空間の中に現れた鏡に手を伸ばす。


「『5人のところへ連れていって』」


そう言うと鏡に触れていた手がどんどん飲み込まれる。そして鏡を通り抜けると……、懐かしいあの姿が見えた。


「奇炎、三瀬帰、寿々音、青樹、緑樹……」

『みんな……、また会えたね』


お互いに幼い頃の自分を連れて集まった。


『わー、おおきくなったら、こんなかんじだったんだね。てか冥朗かわいすぎ~』

「あ……、ありがとう?」

「『フッ…………』」

「笑いすぎだよ三瀬帰」

『いや、』

「寿々音の言語能力が低いのは昔からだったか、と思ってな」

「『何それ、ひっどーい!』」


幼い頃の自分達と話すなんて常人では想像も着かないだろう。言うならば、これは二重人格というやつに近しいかもしれない。僕の喜怒哀楽のうち、今のが"喜"と"哀"を、幼い頃のぼくが"怒"と"楽"を……。それが今、1つになろうとしている。代償は大きいだろう。違う感情の融合、思考回路の変化、感情の起伏……等々、色々なことがある。でも僕達はやり遂げなければいけない。


村の皆は許さない………………………………(村を焼いたあいつらを)

村の皆は許さない………………………………(幸せを奪ったあいつらを)

村の皆は許さない………………………………(のうのうと生きているあいつらを)

村の皆は許さない………………………………(生き残った僕達を)

村の皆は許さない………………………………(何もしないで泣いていた僕達を)

村の皆は、許さな、い…………………………(まだ生きている僕達を)

そう、村の皆は、


「許してくれない……」

「冥朗、どうかしたのか?」

「顔色が悪いよ?」

「……なんでもないよ、心配してくれてありがとう青樹、緑樹」

『……冥朗』

「大丈夫、心配しないで、ぼく」


真っ暗闇の中、現れた鏡に手を伸ばす。


「冥、ぼく、みんな……、準備は良い?」

『「うん(ホホッ)」』

「『「いつでも良いよ(ホーホッ)」』」

「『「あぁ(ホーホ)」』」

「『「いっつでも良いよ(ホッホー)」』」

「『「う~、緊張する(ホー)」』」

「『「おうとも(ホホホッ)」』」


心の中で鏡に行き先を告げる。


これから始まるのは悲劇なり。これから始まるのは地獄なり。これから始まるのは…………復讐なり。


「ふふっ、楽しみだなぁ~」

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