第10夜 狂った帝国 Ⅱ

「燃やせぇー!全て燃やし尽くせぇー!!」


あぁ、忌々しい兵士どもの声がする。この光景を見るのは何回目だろうか。1回目は咲真家の一族、透さん達と使用人が殺された。2回目は同じく咲真家の一族と使用人、そして君の仲間が殺された。3回目には、ついに君が殺されてしまった。4回、5回、6回……何度も、何度も何度も沢山の人が殺される光景を見た。これから君は復讐の、地獄への道を辿るだろうけど、俺はそれでも君に生きていてほしいと何度も願う。苦しむこともあるだろう、悲しいこともあるだろう……でも、君には生きていてほしい。これは俺の願いだ。所詮、人の願いなどその人の欲望である。そうだ、これは俺の我儘で俺の欲望だ。そうあってほしいという俺の身勝手な思い。でも君には生きていてほしい。今回こそ、今回こそは君を救う……。



***



「……夢」


またこの夢を見たのか……。何度も見る悪夢。目の前で咲真家の屋敷が燃えていて、そして……。


「冥朗……」


君が殺されてしまう夢。トントンッ、と扉を叩く音がして寝室の部屋の扉が開けられる。


「御休みのところ、すいませんね~」

「水か。どうしたんだ」

「炎朗第1皇子が兵を動かしました、方向から推測するに咲真家でしょうね。今あそこはインバシオン王国の密偵を匿っていると民間に噂が流れてデモが起こっていますから」

「そんな話、初耳なんだが」


咲真家でデモなんて学園でもそんな噂は聞いたことがない。こんな情報が出てこないとなると……。


風朗フウロウか……」

「でしょうねー、こんな情報管理が出来る人脈なんて風朗皇子くらいですから」

「くそ……」

「でも頭の良い風朗皇子が炎朗皇子の為に動くとは考えられませんね、何か考えがあるんでしょうが……」


王宮は次の王位継承権を狙う者たちで溢れ帰っている。第1皇子の炎朗、第2皇子の俺、第3皇子の風朗、第4皇子の土朗ツイロウ……。只でさえ敵が多い王宮で炎朗は俺に対してあたりが1番強く、何かと絡んでくる。風朗はそうでもないが、あいつは腹黒だからなるべく関わりたくない,。そして土朗は……正直言って引きこもりだ。 風朗と土朗は一応、双子だが性格は真逆。年齢は俺の1つ年下で緑樹くんや青樹くんと同い年だ。まぁ、そんな土朗でも学園にはちゃんと通ってはいる。久し振りに会ってみたいものだな。


「水朗皇子、炎朗皇子どうするんです?」

「勿論、後を追うに決まっている。護衛を起こせ!今すぐ出発するぞ!」


そう言って水に護衛を起こしに行かせ、普段着に着替える。服の袖に腕を通して、ボタンを閉める。そしてコツコツと足音を響かせながら、廊下に出る。


「!!……土朗か」

「ひ、久し振りだね、水朗兄ちゃん」

「こんな真夜中にどうしたんだ?」

「え、えっと、物音がしたから何しに行くのかなって……、思って」

「あぁ、それはすまなかったね。土朗も普段着に着替えているが、何処かへ行くのか?」


満面の笑みでそう聞くと土朗はおどおどし始めた。図星か……。


「兄ちゃん!」

「?!…………なんだ?」

「風朗が……風朗が、炎朗に捕まっちゃったんだよ!!」

「……な、に?」

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