第10夜 狂った帝国 Ⅰ

「お前は、誰だ?」


やはりフードの男は質問に1ミリも答える素振りを見せない。三瀬帰達は先に屋敷に撤収してしまった、どうしたものか……。そう考えているとフードの男はある方向を指で指した。


「咲真家がある、方向……?」

「急いで向かった方が良いよ、失いたくなければ、ね……」


それだけ言い残してフードの男は森の中に消えていってしまった。なん、だったんだ……。はっ!と我に返り咲真家のある方向へ急ぐ。心の中はさっき言われた事と嫌な予感でいっぱいだった。


「速く、速く、速く速く……速く!!」


僕は心の中の嫌な予感を勘違いとすることにして咲真家への道を走った。



***



「…………っは」


思わず笑みが溢れる。この帝国の人間は、こんなところまで堕ちて来てしまったのか。目の前にあるのは、燃えている咲真家の屋敷と狂気に狂った帝国の民達だった。


「裏切り者を断罪しろー!!」

「偽善者に死の制裁を!!」

「……なんなんだ、これは」


透さんが民間人に取り抑えられて、炎朗エンロウ皇子の前で跪かされている。そして透さんの横には奥さんのミオさんと子供の水渡ミトちゃんが兵士によって捕らわれていた。奇炎達は……、民間人の中で悔しそうに拳を握りながら静かに怒っていた。フードは被ったまま、仮面を取って奇炎や三瀬帰と合流する。


「奇炎、この状況はどういうこと」

「……帝国が俺達の行動が、咲真家のせいじゃないかって。それで民衆に噂が広まって、この有り様」


青樹と緑樹は悔しそうに顔を歪めている。仕方ない……か。


「三瀬帰」

「……、どうやら考えていることは同じのようだな……」

「例の作戦、今実行しよう」

「なっ!」

「……」

「「え?」」


4人とも驚いた表情をしている。それもそうだよな、これを実行したら復讐には遠ざかってしまう。でも、それでも……


「僕たちの恩人を……、僕たちの最後の家族を守りたい。駄目……かな?」


みんなで顔を見合わせる。そして笑いながら。


「良いに決まってるよ」

「やるっきゃないでしょ!」

「「やろう!!」」

「決定だな」


みんなの言葉に胸が暖かくなる。


「ありがとう、みんな」

「あのー……、俺達どうすれば良いの?」

「……完璧に忘れてた」


天正や空正はどうするか。ん、いや待てよ……。


「天正お前、インバシオン王国に来ないかと提案してきたよな」

「え、あ、あぁ」

「それ、のった」

「……へ?」

「だから、その提案にのった」


今の僕達がこの騒ぎを鎮めるにはきっと死者を出してしまう。そうすると僕達はもうここには居られない。もう戻ってこれないかもしれない。だから……


「当たって砕けるのは好きじゃない」


でもこれは僕達がやらなきゃ、また失ってしまうから。

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