第9夜 聞き覚えのある声

フードを被った男はいつの間にか僕の背後の木の上にいた。

全く気配がしなかった……。

相手を隅から隅へと観察する。


「そんなに見つめられると照れちゃうなぁ……はっ!冥朗ちゃんのえっちぃ~」

「は?」


なんだこのふざけた態度……1発だけ殴ってやろうか。

そんなヘラヘラした様子もつかの間。

すぐに男の纏う気配が変わる。


「そんなに警戒しないで」


声のトーンが変わった。

いや落ち着け、僕。

まず、こいつは何で僕に接触してきた?

該当理由……不明。

誰、何が目的で……そんなことで僕の頭のなかはぐちゃぐちゃだった。

そして僕は何者かも分からないこいつの声に、何故か安堵を覚えていた。


「お前は、誰だ?」




◈◈番外編◈◈


「めいろーう!かくれんぼはもう終わったよぉー!!」


遠くから水朗の声が聞こえる。

でも肝心の僕は洞窟に隠れている。

水朗の"かくれんぼが終わった"という言葉は罠だ。

この罠に幾度も引っ掛かった。

だが!

僕は今回こそ逃げ切るのだ!!

そう思い、強く拳を握りしめる。


「あ、冥朗みっけ」

「ふぇ?」


ん?んん~??

目の前には水朗がいる。

あれ?もう見つかっちゃったの?僕。


「冥朗のフクロウの冥がここだって教えてくれたよ」

「ホホホー(ごめんなさい)」

「な、……。なにやってんのよ冥ぃー!!」


この声は三里先にも響いたという。

水朗と話していたらポツポツ雨が降ってきて雷も鳴り始めた。

雷が鳴る度に、水朗は体を震わせる。


「……水朗、雷が怖いの?」

「いや、怖くなんかないし!」

「えぇー、本当にぃ~?」

「本当だよ!ぴゃっ!!」

「ホホホーホ……(怖いんだね……)」


毎回、雷が鳴る度に体を震わせる様子はまるで近所にいる野良猫みたいだった。


「ふふっ、水朗ってば野良猫みたい」

「猫じゃねぇし、てか俺は狼だし」

「はいはい、そうですねー」

「俺のこと馬鹿にしてる?」

「「うん、馬鹿にしてる(ホホッ)」」


顔を見合わせて笑い出す。



「冥朗、冥、雨が上がったら帰ろうか」

「うん、そうだね」

「ホー(賛成)」


僕は水朗の声に安心感を覚えていた。

そしてこれは、ボーオ村が滅ぶ約2週間前の出来事だった。

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