第7夜 襲撃者の正体…… Ⅰ

『こちら冥青ペア、所定の位置に到着』

『えー奇緑ペア、所定の位置に到着した』

『了解した、では作戦通り頼むぞ』

『『『『了解』』』』


まだ冷たい風が吹く、25時の真夜中。僕達は王宮の近くにあるラトス神殿にいる。何故ならば、インバシオン王国のスパイが侵入しているかもしれないからだ。宗教というのは恐ろしい。宗教同士がぶつかり、内乱で滅んでしまった前例があるくらいだ。そもそも宗教なんて心が弱っている人に漬け込む詐欺、なんてことも言われている。実際に詐欺にあって貧乏になってしまう人達も多い、どうしたものか……。


「冥朗」

「ひゃあっ?!……どうしたの」

「あ、いやごめん。小声で言ったつもりが驚かせちゃったみたいだ」

「……いや、全く驚いていないけど」


そう、驚いていないのだ。うん、僕は驚いてない、うんうん。


「え、今"ひゃあっ?!"って言って……」

「世の中にはね、気付かなければ良いものもあるんだよ」

「へ、へぇ……。あ、それで目標が近づいているみたいだよ」

「もうすぐか……」


青樹が、千里眼を使うため外していたフクロウの仮面をつけ直す。フクロウの仮面をつけている時は眼帯をしないのが楽だ。眼帯をしているのはフクロウとの契約の花、白詰草の紋様を隠す為だ。僕達、ボーオ村の住民はもれなく全員が千里眼持ちだった。しかもニージオ帝国ではボーオ村にしか千里眼持ちがいなかった。だからこの目が見つかると、生き残りだということがバレてしまうのだ。


「冥朗、目標が接近。行こう」

「うん」


目標に背後から近づく。敵は1、4……9人ってところか。


「いや~、今回の商売も稼がせてもらいましたよ。子供の奴隷は高く売れますからな」

「いえ、こちらこそ邪魔な奴らを排除できて儲けられるとは一石二鳥ですからな!」

「これからも頼みますぞ!こちら今回の報酬です」


何だこの根っから腐った塵どもは。スパイかと思ったら人身売買か?そういうの……


「反吐が出るねぇ。だせぇよ、あんたら」

「だ、誰だ?!」

「誰だと言われちゃあ、名乗るしかあるまい。インバシオン王国の第2王子、天正テンマサ!ここに推参!」


『『『『は?』』』』


ん?インバシオン王国の第2王子?なぜ敵国にインバシオン王国の王子が?


『は?ってなんだ、は?って。いや、お前ら何があった』

『……インバシオン王国の第2王子と名乗っている天正とか言う人が、スパイらしき人の前に堂々と登場した。どうする』

『あぁ、報告は本当だったのか』

『知ってたの?』


知ってたならもっと早く教えてほしかった。帰ったら愚痴を言いまくろう、うん。


『というか報告通りなら、もう1人……』


「ほら、何してる空正ソラマサ!恥ずかしがってないで出てこいよ」

「え、えっと。インバシオン王国第3王子の空正です。えっと……悪党は許さんぞー」


紙を見ながらの言わされ台詞。なんか可哀想……。そう思いつつも三瀬帰の指示を待つ。今回は三瀬帰が指示をして、寿々音は留守番役だ。


「というわけだ!お前ら観念しろ!」


『三瀬帰、どうするの』

『どうもこうもないぞ、奇炎。みんな捕獲が最優先事項だからな』

『『『『了解』』』』

「おらおらおら行くぞー!!」


……以外と強いんだな。だが、この数では多勢に無勢だろう。あ、天正が体勢を崩した。


「その首!もらい受ける!」

「兄者!」

「……えっ、冥朗?!」


そう青樹に呼ばれたときには、もう体が動いていた。空正、といったか。その姿があまりにも天朗を失ったときの僕に似ていて、いても立ってもいられなくなった。天正とかいう奴の前に迫った大剣を、双剣で受け流す。鉄と鉄とがぶつかり合う鈍い音がする。


「?!」

「……多勢に無勢なら退け、それが戦いだ」


あーあ、やっちゃったよ。みんな迷惑かけて、ごめん。

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