第5夜 襲撃者 Ⅰ

上から奇炎が落ちてくる。奇炎が落ちてくると思われる座標は……。相手からの剣をいなし、走る。奇炎ならばこの高さから落ちても大丈夫だろう、が。事が"起こってからでは遅い"んだ。床を蹴り、奇炎をキャッチする。


「ありがとう、冥朗」

「ううん、御互い様だよ。さっきは援護ありがとう」


戦闘中だというのに2人の間にはほのぼのとした空気が流れる。侵入者達は、ほとんどが冥朗によって全滅。青樹と緑樹は集団戦が苦手だから片付け終わらなかったのだろう。守りながら戦うというものも疲れるからな。無事に床に着陸、そして最後の残党を一掃。


「これで全部?案外あっけなかったね」

「僕はつまらなかったけど」

「冥朗、魔王みたいなこと言ってる……」

「別に魔王でも良いよ、かっこいいし」

「そうなの……かな?まぁ良いや、まずはこいつらの身元からだね」


コクッと頷き侵入者のフードを取る。これは……


「メンティー学園の退学生だね」

「……」


何故、メンティー学園の退学生が生徒を襲ったのか。まずメンティー学園には退学制度というものがあり、成績条件を満たせなかったものがそれに該当する。貴族階級を剥奪されたとしても、成績が良ければ退学をさせないという実力主義がこの学園の方針だ。話を戻そう、そもそも退学した生徒の大体が武術か勉学か魔法の成績が悪かった者だ。侵入者は僕が覚えている限り、武術の成績が足りなかった者達だ。だが、こいつらは水朗皇子の従者である水や青樹と緑樹まで手こずらせた。何か引っ掛かる。それに青樹と緑樹は1学年で成績トップを納めている。そんな青樹と緑樹がそう簡単に手こずるか?いいや、そんなわけがない。たとえ集団戦が苦手だとしてもこの者達の退学時の成績なら勝てるはずだ。何か、何かおかしい……。


「冥朗?」

「?!あ、ごめん。考え事してた」

「ううん、大丈夫。それより侵入者の治療をしないと、やりたくないけど」

「あぁ治癒魔法ね、うん分かった」


この世界には魔法が存在している。攻撃魔法、防御魔法、治癒魔法、援護魔法。色々な魔法がある。ただ僕達はフクロウの能力で魔法を補えるため、成績トップだ。まぁ学園でも魔法の使用は禁止されているのだが……。魔法使用の許可が下りるのは、授業中と戦場にいる時だけだ。今回は侵入者の腕を斬り落としていたりと、派手なことをやってしまったので仕方ない。バレなきゃ犯罪じゃない!駄目だけど……。


数十分後──

「冥朗、奇炎、ご苦労だったな」

「いや、別に苦労ではないし慣れてるから大丈夫」

「そうだよ三瀬帰、僕らは仲間なんでしょ」 「ふっ、そうだな」


笑う要素、今どこにあったんだろう。


「にしても派手にやったようだな。血の匂いがする」

「「あ、バレた」」

「……」


三瀬帰はニコッと笑って拳を握る。これ説教行きだな。奇炎と顔を見合わせて苦笑いをする。


「まぁ今回は不測の事態だったから許そう。冗談て許可を出した俺も悪かったしな」

「あ、いいんですね」

「なんだ?説教でも食らいたかったか?」


2人してぶんぶんと首を横に振る。そうしていると寿々音と青樹、緑樹が修練場に入ってきた。


「じゃあ全員揃ったところで報告を頼む。寿々音、他の生徒は出入り禁止だ」

「俺は駄目なんですか」

「……水朗皇子に聞かせるお話ではありませんので」

「いえ、大丈夫です。聞かせてください」

「……はぁ、分かりました。じゃあ水さんも呼んできてください」


面倒な奴が増えた。前途多難だな、僕は……。そう思って僕はまた、今日も息をする。

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