第4夜 苧環の幻惑 Ⅱ
『……行くよ、3、2、1』
そう3人に通達した後、修練場の屋根から飛び降りる。普通の人間だったら、ここから降りた時点でぺしゃんこだ。だが、僕はフクロウの加護がある。僕はS級フクロウ、身体能力強化は他のフクロウよりも強力だ。カッ、そう靴を鳴らし修練場に降り立つ。見知らぬ来訪者はキョトンとしている。まぁ無理もないか。深呼吸をする。そして、
「見知らぬ来訪者よ!学園の生徒を傷つけることは万死に値する!この学園より立ち去れ!さもなくばお前らは塵と化す!」
そう言い放つ。少しシーンとした後、どっと笑いが起こる。
「小娘風情が何を言ってるんだよ」
「早くお家に帰りなよ~」
ここまで脳がないとは……。奇炎は上で静かに怒っている。そして奇炎は三瀬帰にこう言った。
『……三瀬帰、殺す許可を申請』
『僕からも申請』
『……はぁ、許可する。1人も逃すなよ』
「「……了解」」
静かに修練場の中央にゆらゆらと立つ。冥朗は確実に、笑っていたと言う。生徒の退避も終わった、見てる奴はいない。だったら……
「おいおい、どおした?びびっちまったか?」
「そりゃ無理もねぇ!仕方ねえよ!お子ちゃまだもんな!」
『3、2、1……』
双剣で肉を引き裂く感触。今日は仕事が休みの日だっていうのに。ある奴の片腕が床にベシャッという音を立てて落ちる。
「ぎゃあぁぁぁぁ!」
辺りは、どよめく。そりゃ小娘風情とか言ってたもんなぁ?
「小娘風情が君の腕を斬ったよ?小娘風情に負けてる君達は、赤ちゃんかな?」
「……こんのぉー!!!」
数人が1度に斬りかかってくる。でも僕はそんなの慣れっこ。人を斬るのも慣れました。人ヲ殺スノヲ慣レマシタ。ドンナニ辛クテモ我慢シマシタ。ナニセ僕ニハ、7年前ノ記憶ガ無イノデスカラ。僕の記憶が欠落しているとしていると分かったのは、村を焼かれてすぐだった。弱虫の僕は閉じ込めた。それと同時に記憶もなくなった。ぼんやりと少しは覚えている。水朗皇子や僕達が泣いていたこと、そして天朗のことも……。体勢を崩して、弓矢が前髪を掠める。おっと集中しなきゃ集中、集中……。
冥朗、大丈夫かな……。僕は修練場の上から攻撃してるだけ。冥朗は下で侵入者と対峙している。なんて僕は役立たずなんだろう。そんなことを考えていると、冥朗が体勢を崩す。
「!?危ない!」
急いで弓矢を放つ。どうやら冥朗の前髪を掠めて敵き命中したようだ。でも大事には至らなくて良かった……。この調子なら、あと一分で片付くかな。僕は、みんなを守らなくちゃ。何をしても、何を犠牲にしても。約束したから……。ん?修練場の2階に奇妙な人影が1つ。なんだろう、あれ……。そう思っていると後ろから誰かに背中を押された。黒いフードを被っていて分からなかったが、そいつからは苧環の匂いがした。
「え……」
ヒューと僕は落下していく。死にはしないだろうけど、冥朗の邪魔になったらやだな。そう思い空中で体勢を整える。冥朗もその事に気付いたみたい、あ、キャッチしてくれようとしてる。
「優しいなぁ、冥朗は」
みんなは守らないと。それが昔、冥朗と交わしたちっぽけな約束。彼女は忘れているだろうけど、僕の大切な思い出。僕はこうして今日も息をする。
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