第4夜 苧環の幻惑 Ⅰ

俺は水、(自称)イケメンの14歳だ。このニージオ帝国の水朗皇子の従者なんだが……。俺は今、この学園1の美男美女と呼ばれている2人を追いかけ回している。それもこれも水朗皇子の人材欲しい病のせいだ。まぁ、そうなるのも今の王宮では仕方のないことなのだが。今の水朗皇子には味方がいないというか、信頼できる者が少ない。だから信頼できる者を少しでも確保しておきたいという考えなのだろう。にしても2人とも足早くないか?!美形でしかも運動も出来るってか。ちなみに追いかけ回しているこの2人は、水朗皇子を超えて学園トップの成績を納めている、まさに学園の王子と姫。そして何故か、王子が女子である冥朗ちゃん、姫が男子である奇炎くんらしい。やっべぇ、2人とも早ぇ。俺は水朗皇子の従者、だから隙を見せてはいけない。そのため余裕で追いかけている風を装う。もちろん満面の笑みで。


「2人ともー、なんで逃げるのぉー!」

「本当に断固拒否します!!」

「僕も同じく!」


この方向、風紀委員室に行こうとしてる?風紀委員室には水朗皇子がいるのに……。俺が2人を追いかけ回している元凶よ?気付いていないのか……。そのうち2人は走るスピードを上げた。まじかよ、スピード上げるなよー!!追いかけていても、どんどん距離が離れていく。


「ちょっと、やばいかもなぁ」


そんなことを思っていた時、誰かに呼び止められた。


「水さん!」

「ん?俺、今すっげぇー急いでんだよ」

「た、大変なんです!」


そう言った生徒は2年のローブを羽織っており、フードを被っていた。フードなんて被るやつ初めて見たな。大変とは、なんのことやら。


「修練場に変な奴らが!みんなが、みんなが!」

「……マジ?」

「マジです!早くこっちへ!」


そう言って俺はまた走る。2人を追いかけるのは後回しだな、まぁ風紀委員室には水朗皇子がいるしな。フードを被ったこの生徒からは苧環オダマキの花の匂いがした。苧環の花の匂いがするなんて珍しいな。苧環の花の汁が皮膚に付着すると、強めの皮膚炎や水泡が出来るという毒性がある。だからニージオ帝国では栽培が禁止されているんだが。まぁ隠れて栽培している人もいるだろうし、珍しいことではないか。急いで走り修練場に着くと、そこは見知らぬ奴らと生徒が交戦中だった。


「やべぇくらい数多いじゃん!これ終わらねぇって!」

「緑樹、口じゃなくて手を動かす!」


青樹、緑樹兄弟が戦ってて、これかよ。咲真のこの2人は武術での稽古などにおいて1学年でトップなのだ。下手すると俺より強いこの2人が……。帯剣を抜き手に握る。


「よーし、いっちょやりますか!」


数十分後──

これ、いつ終わるのかな。一向に終わんねぇぞ、これ。


「水さん!失礼します!」

「え……、ちょま」


え、か弱い男子である青樹くんにお姫様抱っこされてるってどういう状況?そんな混乱した状況の中、修練場の屋根から2つの影……。


「……マジかよ」


いや本当にマジかよ。あの2人、正気なんか……?いや正気じゃないか。でも降り立ってくるその姿は俺が昔、憧れた"ヒーロー"みたいだった。

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