第2夜 記憶の片隅

馬車に揺られながら、俺は咲真家での出来事を思い出す。黒曜石のような瞳に、束ねられた黒い髪。女なのに自分自身を"僕"と呼ぶ。そんな彼女を懐かしいと感じた。


「冥朗……か……」


俺が破滅を招いたボーオ村にいた女の子。俺の初恋の女の子。今日、会った彼女はボーオ村にいた冥朗なのだろうか……。でもボーオ村に居た時は左目に眼帯なんてしていなかった。しかも冥朗はいつも"冥"というフクロウを連れていた。ボーオ村の村人は約500人でそれに対してフクロウは120羽。フクロウにも階級があるらしく、身体強化などに特化したC級、巨大化や浮遊能力などに特化したB級、透明化や意志疎通などに特化したA級。

そして、これまでの階級全ての能力を持ち神々の能力を使えるS級。S級はボーオ村にも5羽しかおらず、その5羽は冥朗、天朗、奇炎、青樹、緑樹に振り分けられていた。冥朗、奇炎、青樹、緑樹、三瀬帰、寿々音か……。もしかしたら……、なんてな。

フクロウはボーオ村の中で相棒を選ぶ。だから冥朗達の世代は天才と呼ばれていた。特に冥朗は巫女と祭り上げられる程のフクロウを相棒にしていた。あと相棒となるフクロウには自分の名前の一部を与えることで契約ができるらしい。まぁ相手の同意も必要らしいが……。そして契約したフクロウは契約者と一心同体で、一方が傷付けばもう一方も傷付く。ある意味、呪いだな……。だからあいつらはそれを逆手に取った。


「水朗皇子~、ま~たあの子の事ですかい」

「五月蝿いぞ、スイ

「随分とお熱なことで~」

「力ずくで黙らせてやろうか?」


そう言って剣に手を掛ける。そうすると水は降参したかの様な素振りを見せる。水は俺がこの帝国で1番信頼している人物で、年齢は俺と同じで14歳。前は裏世界の住民だったが俺はこいつのことが気に入った。だから色々な手回しをして俺専属の従者にしたわけだ。まぁ、どうやったかは秘密だが……。


「にしてもあの若い6人、左目に眼帯してましたねぇ~。今の流行りですかねぇ~」

「そんな流行り聞いたことがない」

「まぁまぁ、で。三瀬帰先輩と寿々音先輩。先輩方を除いた4人、俺達をすんげぇ警戒してましたよ」

「……」


警戒するのも当然、か……。ボーオ村の冥朗であるにしろないにしろ、この帝国の皇子が突然来たのだ。驚いて警戒するのは当然だろう。


「どちらにせよ、あの身体能力……。味方に欲しいな」

「うわ出た~、水朗皇子の人材欲しい病~」

「否定はしないが言い方を考えろよな、言い方を」

「でも味方にするのはアリだと思いますよ。あの制服はメンティー学園なので調べさせれば、すぐ見つかるはずです」


メンティー学園、か……。しばらく行ってないんだよな。行くと面倒な婚約者もいるからなぁ。


「はぁ……」

「前途多難ですね……」

「それを言ってくれるな」


また彼女に会えるだろうか。会えたらどんな言葉をかけようか。


「水朗皇子ぃ~顔がにやけてますよ~」

「……」


よし、その前に水の教育からだな。


「なんか物騒なこと考えてません?!」

「いやぁ~、考えてないが?」

「絶対に考えてるじゃん!」

「気のせいだよ、気・の・せ・い」

「えぇ~、にしてもあの6人の容姿だと大分目立つと思うんですよね~。冥朗さんは黒曜石みたいな瞳に束ねられた黒い髪。んで奇炎さんは炎みたいな瞳に、黄色い赤メッシュが入った髪!それで青樹さんと緑樹さんはそれぞれ名前の一部、青と緑の瞳にどちらも水朗皇子と同じ水色の髪!そして三瀬帰先輩は翠色の瞳に、碧色の髪!最後に寿々音先輩は濃い紫色の瞳に紫色の髪!そして全員もれなく美形!!」

「長い長い。それにお前も十分、綺麗な朱色の瞳に綺麗な緋色の髪を持ってるよ」

「そうですかい~?でも水朗皇子も綺麗な深い青の瞳に綺麗な水色の髪をお持ちじゃないっすか」

「……そうか」

「あっ、に、にしても今日の寿々音先輩はいつもとテンションが、大分違いましたよねぇ、あはは、はは、は……」


ふと馬車の中から空を見ると、今日は綺麗な満月だった。あの日も、満月だったな……。あの月が蒼く綺麗で、無慈悲に見えた日。あの日から姿を消した初恋の女の子。俺が居場所と家族を奪った初恋の女の子。また冥朗、ボーオ村にいた君に会えるだろうか……。

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