第4話 天才と呼ばれていた少年①
俺、アーク・レスラントは天才だ。
そのことを強く自覚するようになったのは10歳を超えたあたりからだった。
剣術を習えば家で雇われている騎士に勝利し、魔法を習えば軍に所属している魔法使いの中でも上位の者にしか扱えないレベルの魔法を習得し、学問でも教わったことは全て理解し記憶することが出来た。
周囲は天才だ、伯爵家の神童だと俺のことをもてはやした。
その称賛と賛美の声が気持ちよくて、もっと賢く、もっと強くなろうと俺は毎日勉強と訓練を頑張っていた。
そんなある日、俺と同い年で同じく天才だと言われているシュトラス公爵家の令嬢との婚約が成立したと父上から知らされた。
なんでもその令嬢はシュトラス家の一人娘で能力もあることから次期当主の立場にあるため、現当主が同年代で身分が下の令息を婿にとろうと動いているのだとか。
一時期はベンタート侯爵家の長男との縁談が進められていたが、何か揉め事が起きたようでそれが頓挫したらしい。
その結果、侯爵家より下の伯爵家であり歳も同じである俺の元に話が来たのだとか。
シュトラス家の現当主と俺の父上は学生時代からの親友という事も関係しているのだろう。
成人前である貴族の婚約は親の意見が絶対のため俺に拒否権など無いのだが、その天才令嬢に興味が出た俺はこの縁談に前向きな気持ちを持っていた。
少なくともこの時までは。
それから1週間後、その令嬢と実際に会うことになった。
こちらが公爵家に向かうものだと思っていたのだが、どうやらあちらの方から来るらしい。
不思議に思ったが、1度縁談に失敗していることに理由があるのかもしれない。
しばらく出迎えのために屋敷の前で待っていると数台の馬車を引き連れて件の令嬢がやって来た。
そして馬車から降りてこちらを確認するとすぐさま問いかけてきた。
「お前が私の婚約相手だな?」
その物言いに驚きながらも俺は何とか言葉を返した。
「そうですが…」
「そうか。ならばこれから私と戦え。天才と呼ばれている力が本物か今から私が確かめてやる。」
父上や伯爵家の使用人などが唖然としている中、公爵家の使用人達は特に変わった様子は見られないためこれが彼女の平常運転なのだろう。
俺は心の中でそっとため息をついた。
そうして俺は初対面である婚約相手と模擬戦をすることになった。
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