第2話 目覚め

最後の記憶はそこまでだった。


意味不明だが、今目の前で確認した現象に比べたら意味不明度合いはではいくらか劣っているだろう。

俺の目の前には大きな鏡がある。

人の全身を映す用の大きな鏡だ。

その中から小学生くらいの大きさの子供がこちらを見ている。

艶のある黒髪に宝石のように輝く赤い瞳をもつその少年の顔は今まで見た誰よりも整っていた。


鏡に映っているということは、この美少年に俺は今なっているということなのだろう。


しばらくこの美少年に見惚れていると、外から鳥の鳴く声が聞こえてきた。


その音で我に返り辺りを見渡してみた。


そこはバスケットコート並の広さがある部屋だった。

先程俺が入っていた大きなベットに服が入っていると思われるクローゼット、机と椅子が1式、そして壁にはひと振りの無骨な剣が立てかけてあった。


察するにこの美少年の部屋なのだろうが・・・


一体俺の身に何が起こったのだろうか。訳が分からなくて困惑していると、不意にこの部屋の扉をノックする音が聞こえた。


びっくりして固まっていると、ガチャりと扉が開かれた。

中からはメイド服を着た30代くらいだと思われる青色の髪をした女性が出てきた。


仕事ができそうな雰囲気をもつその女性はこちらを見て少し驚いたような顔をしたがすぐに真顔にもどり話しかけてきた


「アーク様、起きていらしたのですね。朝食の用意が出来ておりますので着替えた後に食堂へいらしてください」


俺にそう告げた後、女性はこの部屋から出ていってしまった。


しばらく呆然としていたがとりあえず言われた通り着替える為に俺はクローゼット開けた。


中には大きさの割には数が少なめだが高価そうな服が入っていた。


その中から無難そうなシャツとズボンを選び着替えてから扉の外に出たら先程の女性が外で待っていた。


動き始める様子がなかったので仕方なく廊下を進み始めると、その女性は俺の後をついてきた。


女性は格好からしてメイドさんなのだろうが、後ろを着いてくるということは俺が食堂の場所を知っていると思っているのだろう。

とりあえず怪しまれないよう堂々と歩いていよう。


歩くこと数十秒、目の前に階段が見えてきたのでとりあえず降りてみる。

メイドさんは特に何も言わずについてくる。

降りた先は左右に廊下が伸びておりどちらかに曲がらなければならない。

右と左どちらに行くべきか考えながら階段を下りていく。

多分左だろうと思いそちらに曲がるとメイドさんが少し困惑しながら声をかけてきた。


「アーク様……食堂は反対でございますが?」


どうやら2分の1を外したようだ。

俺は何事も無かったかのようにすました顔をして振り返り、そのまま歩いて行く。

メイドさんは不思議そうにしながなも後に付いてきた。


扉を2つ通り過ぎたがメイドさんは何も言わずに付いてくる。


さらにもうひとつの扉が先に見える。


俺は意を決してメイドさんに食堂の場所を聞くためにその扉の前に立ち止まり後ろを振り返った。


すると、メイドさんは俺の前を横切りその扉に手をかけ、そのまま扉を引いた。


どうやらここが食堂のようだ。

振り返った体勢で固まっている俺を不審に思ったのか、メイドさんがチラッとこちらを見て言った。


「……あの、アーク様?」


俺は慌てて扉の奥へと進んだ。


部屋の中には食堂と言うだけあって大きな横長のテーブルといくつかの椅子が並べられていた。


その椅子のひとつの前にいくつかの料理が並べられていたので、とりあえず俺はそこに座った。


メイドさんは俺の後ろの壁際に立った後、動く気配がないので仕方なく俺は食事を始めることにした。


料理はパンやスープ、サラダと言った普通の朝食だった。

箸がないことに少々戸惑ったがスプーンやフォーク、ナイフを駆使して何とか食べきった。


テーブルマナーに関して何か言われるかもとそわそわしていたが、特に何も言われることなく食事が終わってしまった。


これは俺のマナーに問題が無かったということなのか、それとも単にメイドさんだから言ってこなかっただけなのか判断に迷っているとメイドさんがこちらに近づき話しかけてきた。


「アーク様、旦那様からお話があるとのことですので私に付いて来て頂けますか?」


俺がその問いかけに対して頷き立ち上がるのを確認してからメイドさんは進み出した。


しばらく歩いた後メイドさんがひとつの扉の前でノックをした。


「旦那様、アーク様を連れてまいりました」


メイドさんがそう言うと中から低い声で入りなさいと返事が返ってきた。


「失礼します」


そう言ってメイドさんが扉を開けた先には厳つい顔をした壮年の男がいた。




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