誕生日翌日の小さな誕生日会
伊崎夢玖
第1話
チッ、チッ、チッ…
時計の秒針の音がやけに大きく聞こえる、深夜零時八分。
誕生日が過ぎた。
今年も一人で虚しく誕生日を迎え、とうとう三十路になってしまった。
「ごめん。お前の誕生日、出張になった」
彼――もとい、元彼に言われたひと言。
それにブチギレて、一方的に別れを切り出してやった。
浮気してたことは前から気付いてたし、ある意味いいタイミングだったのかもしれない。
けど、今年こそは一人じゃないと思ってたから、虚しさが去年の比ではない。
寝ようとしたけど、眠気が来る気配すらない。
こんな日は軽く運動でもして適度に疲れるに限る。
ベッドからのそのそと這い出て、パジャマ代わりにしていたスウェットからTシャツとジーンズに着替える。
(そういや、誕生日ケーキ食べてないな…。コンビニに買いに行くか…)
財布とスマホを手に家を出る。
夜中の散歩は気持ちがいい。
空気がひんやりしているし、誰かに会うことがまずない。
ちょうど今みたいな気分の時には、もってこいである。
コンビニに到着し、目当てのケーキと一人祝杯をあげるためのビールを購入する。
家に帰る気分でもなかったので、近くの公園に立ち寄る。
すると、先客がいた。
高校生のようだ。
一人で夜空を見上げ、タバコを咥えている。
「高校生がタバコなんか吸ってんなし」
いきなりタバコを取り上げられた高校生がイラっとした様子でこちらを見た。
「俺のどこが高校生だって?」
「どこからどう見ても高校生じゃん」
「……ん」
高校生が何かを私に渡してきた。
免許証だった。
生年月日を見て、驚いた。
私より二歳年上。
「……失礼いたしました」
「分かればよろしい。タバコ返せ」
取り上げたタバコを返し、この場にいる気分でもなくなってしまい、仕方なしに家に帰ろうとした時だった。
「その袋の中身、何?」
彼が声を掛けてきた。
「…コンビニのケーキとビール」
「ケーキとビール?」
「ここで一人誕生日会をしようと思って」
「誕生日って今日?」
「うぅん。昨日」
「そっか…。まぁ、座れや」
男性の隣に腰かけると、持っていた袋を奪い取られる。
ケーキを取り出すと、いきなり歌い出した。
「ハッピバースディトゥユー。ハッピバースディトゥユー。ハッピバースディディア、人を勝手に高校生だと思い込んでタバコ奪い取ったお姉さーん」
「それ、根に持ってる?」
「まぁな」
ニカッと笑って、続ける。
「ハッピバースディトゥユー……誕生日おめでとう」
「……ありがとうございます」
まさか誰かに祝ってもらえるなんて思ってなくて、恥ずかしさからつい敬語になってしまった。
祝ってもらえることがこんなに嬉しいとしみじみ感じた、誕生日翌日の真夜中の小さな誕生日会だった。
誕生日翌日の小さな誕生日会 伊崎夢玖 @mkmk_69
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