第2話 異世界!?

どのくらいの時間がたっただろうか、ブッコローは朦朧もうろうとした意識の中にいた。何かひどいアクシデントにあったということはかろうじて覚えているのだが…


──ここはどこだ?一体何があった?


ぼんやりとする頭で、思い出そうとするが、頭がうまく回らない。そもそも自分が今生きてるのか死んでるのか、起きているのか夢の中なのか、そこすらも定かでなかった。


しばらくすると、どこからか話し声が聞こえてきた。どうやら、二人の男女が何か会話をしているようだ。


「ミミズクって食べられるのかな?」

「何言ってるんですか?ダメですよ。こんな珍しい色のミミズク、きっと何か特別な鳥ですよ」

「でもこの大きさ、食べ応えありそうだよ。焼き鳥とか…」


──焼き鳥!?


その言葉に、ブッコローの体がピクリと反応する。何故だが脳裏に、自分の体が串刺しにされた上、丸焼きにされる生々しいイメージが浮かんだ。


はっと、意識を取り戻したブッコロー。

いつの間にかどこかの草原で倒れていたようだ。倒れたままで見上げた先には、二人の人間の姿…、いやその姿は人間ではなかった。背丈こそ人間並だが、緑がかった皮膚に、ゴツゴツとした体つき、布でできた粗末な衣服、それはまるで…


──これはあれか、アニメとかでよく見るあれなのか?


混乱して、見開いた目をパチパチとするブッコロー。


「あら、ミミズクさん生きてたわ。よかった」


女の方が安堵した声をあげた。

それに対してブッコローは先ほど頭に浮かんだ言葉をそのまま口にする。


「えーと、ゴブリン?」


ブッコローのその言葉を聞くと


「あら聞きました?マニタさん、このミミズク言葉を話しますよ」


興奮した様子の女のゴブリン。よく見ると、二人のゴブリンは眼鏡をかけている。そして、その顔にブッコローは、どこか見覚えがある気がした。しかし頭がぼんやりしてよくわからない。体を起こし、頭を振ってみるがやはり思い出すことはできなかった。


そんな様子を見かねて女のゴブリンが言った。


「具合が悪いようだから、一度連れて帰りましょう」


そう言ってやさしくブッコローを抱え上げた。その隣で男のゴブリンは小さな声でつぶやく。


「はー、焼き鳥で一杯は無しか…」

「まだ言ってるんですか?もう諦めてください」


そんな話をしながら二人はブッコローを連れて、どこかに向かって歩き始めたのだった。



しばらくすると二人と一羽は、ある建物に着いた。入口の看板には「冒険者ギルド・ゆうせか」と書かれている。頑丈な木製の扉を開け中に入ると、いくつものテーブルが並んでいる。部屋の奥にはカウンターがあり、その横には大きな掲示板。その掲示板には何枚もの紙片がピン打ちされていた。


室内は多くの人で賑わっていた。いや、そこにいたのは人だけではない。ゴブリン、オーク、さらに動物の顔をした獣人など、明らかに人間以外の種族の者も見受けられた。

その様子を見てブッコローは確信した。自分が、元いたのとは違う世界、異世界に来てしまったということを。


──まじか〜、異世界…本当にあるんだな


そんなことを考えていると、二人のゴブリンは、テーブルの上に置かれたバスケットの中にブッコローを移し、自己紹介をしてきた。女のゴブリンはザキという名で、男のゴブリンはマニタと名乗った。二人ともこの冒険者ギルド・ゆうせかのメンバーとのことだった。


さらにギルドのメンバーで一緒にパーティを組んでるという仲間の二人も紹介してくれた。一人は、すらっとして、シュッとした顔つきのエルフのイクさん。もう一人は金髪でがっしりとした体をしたドワーフのネーサンという名だった。


ブッコローも名乗り、さらに自分の身の上を話し始める。自分がこの世界の住人でないこと、記憶が定かでなく、どうやってこの世界に来て、どうすれば戻れるのかがわからないことなどを。

ブッコローが話し終えると、ザキが「今日は疲れているだろうから、ここで休みなさい」と言い、皆も「元の世界のことは明日また考えよう」と言ってくれた。


皆の好意にブッコローが感謝の言葉を口にしていると、話を聞いていた一人の人間の男が、カウンターの奥から、下を向きこちらに顔も見せぬまま口を挟んできた。


「うちは宿屋じゃないんだけどなぁ~」


男の名はピーといい、このギルドのマスターとのことだった。もってまわったその言い方に、少し嫌みな気質が感じられた。


「ピーさん、隣に人有りですよ。困ったときはお互い様です」


ザキがそう言い返すと、ピーは下を向いたまま「勝手にしろ…」そう言い捨てギルドの奥に消えていった。


こうしてブッコローは、ギルドのバスケットの中で一夜を迎えた。

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