異世界行ったら、ほぼ「有隣堂しか知らない世界」だった件

才波津奈

第1話 中央区のミミズク

その日、ブッコローは急いでいた。

夕焼けに染まり始めた東京上空を、横浜方面に向け、バタバタと飛びながら急いでいた。もちろんバタバタとは比喩で、ミミズクなので実際に音はしないが、そう言いたくなるぐらい急いでいたのだ。


──やべーな。遅れちまうよ


今日は、ブッコローがMCを務めている動画「有隣堂しか知らない世界」の撮影日で、その撮影時間が迫っていたのだ。しかし、撮影場所である有隣堂の伊勢佐木町本店まではまだかなりの距離があった。

先ほどから、気持ちはいているのに、思ったようにスピードがでない。


──体が重いな~、昨日の酒のせいかな


ブッコローの脳裏に昨夜の酒席での記憶がよみがえる。昨日は、動画の件で有隣堂で打ち合わせがあり、その後、動画に出演予定の有隣堂社員、問仁田と飲みにいったのだ。そこでの深酒が、まだ体から抜け切れていない、そんな感覚があった。


──いやー、あの人日本酒飲め飲めってしつこいんだよな


心の中で愚痴は進むが、移動はあまり進んでいなかった。


──仕方がねえ。近道していくか


そうつぶやくと、ブッコローは飛行距離が最短となる方角、中央区方面へ、自らの羽を向けた。しばらく進むと、眼下に日本橋の景色が広がってきた。


──日本橋か…そう言えば誠品生活行ってねーな~


そんなことを考えていた時、ブッコローは背後に何かの気配を感じた。慌てて振り向くと、その目に映ったのは、三羽のミミズクだった。意地の悪い目つきをしたミミズク達が、後ろにぴたりと張り付いていたのだ。中には口をカッと開き威嚇してくるものまでいる。


──ちくしょうー、これだから中央区のミミズクは嫌なんだよ


やがてミミズク達は、ブッコローの体めがけて、掠め飛ぶように煽り始めた。一羽、二羽、三羽と間髪なく続く嫌がらせ。高度を上げたり下げたりしながら躱そうとするが、三羽は執拗に付いてくる。


やがて一羽の攻撃がブッコローの体を直撃する。相手の鋭い爪が体を裂き、数片の羽毛が空に散った。傷こそ深くなかったが、衝撃で体のバランスを大きく崩し、そのままぐるぐる弧を描き落下していく。


このままでは地面に激突すると思われた直前、なんとか体勢を立て直し、道路をすれすれで回避する。そこから、再度上昇しようとしたその瞬間、ブッコローの目の前に車が飛び込んできた。

赤いスポーツタイプの車、その赤いボディーが目の前に迫り、視界が一面、赤一色となる。


──終わった…


そうつぶやくのが精一杯の一瞬の時間。直後に、ドスンと伝わる衝撃。


ブッコローの目の前は、赤から黒に反転し、そのまま深い闇の中に落ちていった。


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