KAC20234 深夜の散歩で起きた出来事

@wizard-T

トリオの憂鬱

「あーあ……」

 ため息を吐きながら、深夜の街を歩き回る。

 ったく、いやな体になっちまったもんだよ。本当、まぶたがちっとも重くならねえ。ひと月ぶりの休みだっつーのに、何なんだろうね本当。朝六時に出社して夜十一時まで帰れねえような仕事がすっかり染み付いちまって、そのせいで午前零時だってのにさ……。


 俺は一人、公園に向かう。

 昔は俺も、ここで近所の友達と一緒に仲良く遊んだもんだよ。

 あいつら今何やってるんだ?……ああそうだ、この前結婚したんだな、裕一と由美って。

 本当、俺だけ置き去りじゃねえかよ、ったく。

 ああ、真っ赤なブランコがくすんで見えるぜ。っつーか電灯の元気なこったね。ほとんど役に立たねえのに。


「ん?」


 そんな風にぼさっと入り込んだ俺は、ブランコの上に金属が乗ってるのに気づいちまった。

 昼行灯ならぬ夜行灯のくせにいい事すんじゃねえか。まあ小銭ならば猫ばばしても罰は当たらねえだろうなと思い俺は近寄った。


 そこに置いてあったのは、ナイフだった。


 別に人を殺せそうなそれじゃなく、スプーン・フォークとトリオ組んでそうな奴。

 でもさ、スパゲッティやカレーをナイフで食わねえもんな。本当、ほとんど使った事のねえシロモノだ。俺はそのさび付いたナイフをなんとなく、ハンカチで拾って持ち帰った。後で言われたら平謝りするしかねえと決め込んでな。

 家に帰った俺はナイフに洗剤をたっぷり含ませて磨き、他の皿の倍ぐらい丁重に磨いた。本当、暗い部屋が急に明るくなった。照明器具みたいだぜ。





 ま、それはそれとして今俺は無職だ。

 いいのかよ?いいんだよ、ようやく、ようやく、あのブラック企業からもおさらばできたって事だからな。薄給だけど使わねえせいか溜まってたの何の。そんで職探しのサイトに登録したらかなりの数がかかって来てる。本当、とがってねえナイフでも使い道はあるもんだね。ああ、ありがたや。

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