12

 素早く来た道を確認する。先ほどまで彼がいたはずの場所には誰もいない。どうやら双子というわけではなさそうだ。

 視線を戻す。やっぱりいる。

 数メートルはあったはずなのに、どうやっていきなり距離を縮めたのか。

 人が移動する時は足音がする。そうでなくても、どこからかやって来る空気というのが伝わるものだ。

 それが彼にはまったくなかった。

 ――もしかして、人じゃ、ない……?

 嫌な予感がよぎった時、リーン……と、どこからかまた軽やかな音が鳴った。

 さっきよりも近くで聞こえる。そう、すぐそこだった。目の前に立つ彼が、小首を傾げる仕草をしたから。ふわり、揺れる髪の隙間から右耳が覗いた。その一番下の柔らかな部位に飾られた金色の鈴。十円玉サイズのそれが、彼の動きに合わせて左右に振れていたのだ。


「怖がってもいいですよ、初めてなら当たり前ですから」


 こういう場合、普通は「怖がらないで」と言うものではないだろうか。

 髪と同じ蜂蜜色の瞳、その中央の球体が一瞬縦長に変化して見えた。

 闇夜に光る猫目のような妖しさに、背筋がスーッと冷えていくのを感じる。

 もしかして私は食べられてしまうのだろうか。

 そうならないために、早く事を済ませなければ。

 

「あ、あのっ、ここって何屋さんなんですかっ?」


 焦った私は姿勢を正すと、気になっていたことを口にした。

 目的を達成するためには、まずそこを知らなければならない。

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