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改めて店内を見回してみると、やはりなんの変哲もない寿司屋か飲み屋のようだ。
天井に床、壁面まですべて傷のないツルリとした木の板に覆われている。そんな淡茶色の内装の中、唯一色味を帯びたものを見つける。
彼の立つ斜め前、カウンター沿いに赤や青、緑や黄色などを使った動物の置き物が並んでいた。左からネズミ、牛、虎……拳大の見慣れた形容が十二匹、続いている。
この羅列を見て、ピンとこない日本人はいないだろう。
今年の干支以外も、みんな飾られているなんて珍しい。
ほんのり香る檜を感じながらそんなことを考えていた私に、さらなる問題が発生する。
どれだけ探しても、テーブル席がなかったのだ。
あるのは彼の前に並ぶ、カウンター越しの椅子だけ。
外食を滅多にしない私にとって、店の人と対面になる席は居心地が悪い。
仕事以外で初めて会う相手と、なにを話せばいいかもわからない。
「ご自由に、そんなに構えなくて大丈夫ですよ」
私の苦悩を知ってか知らずか、星屑のような頭の彼は相変わらず屈託ない笑顔を讃えている。
――仕方ない。少しだけ我慢しよう。
罰ゲームでも受けた気分になりながら、なるべく彼と離れた角の席まで歩を進める。
背もたれの低い、浅がけの四角い椅子に、一息つきながら腰を下ろす。
どうしてこんなことになったのか。夢なら早く覚めてほし――。
細やかな心のつぶやきさえも遮ったのは、座ってすぐに感じた気配。
ゆっくりとゆっくりと、瞳だけを上に動かす。
すると次第に映り込む視界には、遠くに立っていたはずの彼がいた。
この時の私の口は、目と同じくらい大きく開いていただろう。
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