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 建ち並ぶ家の背面、ただ薄暗くてなにもないはずのそこに浮かび上がる檜色の物体。

 横長の四角い姿は平家ひらやのようだが屋根はなく、小ぢんまりとした寿司屋か飲み屋に似た外観だ。

 目を凝らしてみると、中央に縦長い扉らしきものが見える。そしてその腹の辺りから横にびっしりと連なる照明。まるで玉子の寿司についた海苔のように、和風の四角柱が建物を囲んでいた。どうやらこれが光の源らしい。


「なに、これ……お店――?」


 いや、こんな狭い空間に店なんてあるはずがない。

 自分の言葉に疑問を投げかけると、ふと、来た道を振り返る。

 その瞬間、驚きのあまり声を失った。

 ない。そこにあるはずのものがすべて。

 家も、道路も、街路樹や街灯も。

 ない、ない、ない、ぜーんぶない。

 その代わりに広がっているのは果てない闇。

 思い立って足元を確認してみると、これには「きゃあっ!」と悲鳴が出た。

 地面がない。咄嗟に一歩下がった足も踏みしめる感覚がなく、空気にでも乗っているようだ。私は真っ暗闇のど真ん中に一人立っていた。

 悪い夢でも見ているのだろうか。

 茫然としながら顔を上げ、元凶と思わしき物に視線を戻す。

 暖簾もない奇妙な建物は、私の気持ちなどお構いなしに沈静を守っている。

 金色と山吹色が混じり合った柔らかな光。誘うように揺らめくそれは、美しくも不気味に映る。

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