6
定時から数時間後、まだ残っている数人に軽く頭を下げ会社を出る。
梅雨明けした七月、とっぷりと日の暮れた街に時間を間違えた蝉の声。こんな暗がりで訴えたところで反応する相手なんていないだろう。哀れな独りぼっち。誰にも努力を認められることもなく、力尽きるまで鳴くのだろうか。
行き交う人並みを
左手首につけた滑らかな白の革ベルト。中央でチクタクと時を刻む文字盤は輝く石に囲まれている。
いいものを身につけて、背筋を伸ばして、真っ直ぐ歩く。
誰にもバカにされないように。男につけ込まれないように、隙を作ってはいけない。
帰宅ラッシュを過ぎた電車を降りて、腕時計を確認すれば、針は八時二十三分を指している。
家に帰ってシャワーを浴びて、晩御飯を食べてから資格の勉強をして……。
頭の中で分刻みに予定を立てる。計算は得意だ。人の感情のように不確かでなく、必ず答えが決まっているから。
綺麗にならされたコンクリートの地面を歩き、店舗の多い駅前を抜け住宅街に入る。
建ち並ぶ今風の戸建や集合住宅を横切り、交差点を曲がった先に私のマンションがある。
その角にパンプスの先端が差し掛かった時だった。
手元がずいぶん明るいことに気づく。
この辺りには店もなく、夜の道標と言えば道路沿いに建つ街灯くらいだ。
腕時計ばかり見て俯いていた私は、不思議に感じて顔を上げる。
そして右側から漏れる光に思わず足を止めた。
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