第4話 春人/そこまで怒らなくても、ただの後輩なんですから
——今年いっぱいの予定がキャンセルってどう言うことよ!!
急に仕事が入り今夜も飲みに誘われていた大学の先輩に今夜の断りと今年いっぱいの予定のキャンセルをメッセで伝えたら怒りの電話が掛かってきて怒られた。
大学の先輩である鈴木久美さんはサークルの二つ上の先輩でサークルに入った時から色々と面倒をみてくれた優しい先輩だ。
久美さんの卒業論文が完成した時には僕のアパートに久美さんを呼んでピザとお酒を振る舞い心からお祝いをした。
その時に、久美さんは卒論を書き終えたことがとても嬉しかったのかお酒をたくさん飲んで僕の部屋で酔って寝てしまった。よほど酔っていたのか、それとも寝ぼけていたのか途中で着ていた服を脱ぎだして下着姿で僕のベッドの上で寝始めてしまったのだ。
十二月なんだからいくら室内とは言え流石にその格好では寒いだろうと思い、タオルと毛布を上から掛けてそのまま僕のベッドで寝かせてあげた。もちろん僕は床で毛布に包まって寝た。嫁入り前の女性に変な噂が出てはいけないという後輩ならではの配慮だ。
この一件で卒論を完成させるってこれ程までに大変なことなんだと久美さんから教えてもらった。
社会人となってからも久美さんはちょくちょく僕に誘いの連絡をしてきた。『もう男どもからの誘いが多くて大変。今日はたまたま空いていたから春人とデートでもしようと思ったのよ』と言うセリフを毎月のように聞いていた。
そんなに男からの誘いが多いのなら空いてる週は後輩である僕なんかを誘い出したりせずに体を休めた方が良いと思うのではあるが、先輩からの誘いだと条件反射的に『はい!』と答えてしまうのが後輩である自分の悲しい性である。恐れ多くて先輩に意見などは出来ない。
ついこの間、渋谷に呼び出された時には酔っ払った挙げ句に千鳥足状態で街中をあちこち連れ回された。酔っ払っていても身体が覚えているのか、それとも久美さんの本能が為せる技なのか何度も渋谷のホテル街を彷徨っていた。
さすがに何度も同じ道を通るのでちょうど通りかかった空車のタクシーを止めて久美さんを押し込んで住所を書いた紙と万券を運転手さんに渡して帰した。
もちろん、タクシー代を後から請求するような野暮なことはしない。日頃、大変お世話になっている先輩に対して後輩として出来ることはこの程度しかない。
それにしてもなんか久美さん、凄く怒ってたなぁ。でも仕事なんだから仕方がない。いくら大学の先輩だからと言って恋人でもない僕にあれはないと思う。
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