第3話 片岡仁志/あの女(ひと)と同じ名前

 社長に就任してから二ヶ月が経った。華やかなパーティーは顔と名前を売るためと割り切って極力参加している。本来であれば僕がもっとも嫌いなイベントである。


 僕は二ヶ月前に家業の佃煮屋である片岡屋を継承して社長に就任した。

 社長に就任して全社を見て驚いたことがいくつかある。片岡屋が利用している情報システムもその一つだ。なんとこの会社、二十一世紀も二十年が経とうとしていると言うのに未だにメインフレームを後生大事に利用している。

 クラウドに乗り遅れたどころの話ではない。ウインドウズにもオープンシステムにも目もくれずメインフレームのままここまで引っ張ってきたのだ。

 これは流石にダメでしょうと、情報システム部門にシステム更新の提案を持って来させたら出てきた案がメインフレームへの更新であった。


 そこで改めてシステムのオープン化についてシステム部門に尋ねてみたら返ってきた答えが『メインフレームとオープンシステムの両方の知識がある人材がどこのベンダーにもいない』だった。

 そんな事を言っていたら未来永劫メインフレームのままだ。現実に移行してきた会社はいくらでもある。要は片岡屋にやる気がないだけだ。

 情報システム部長を呼んで社外の人材について尋ねてみた。本当に両方に長けた人がいないものなのか。

 情報システム部長曰く『メインフレームとオープンシステムの両方に長けた人材が少ないのは事実です。ただ、ゼロではありません』と言うことだった。


 新たなベンダーを含めて現行システムを更新する提案書を出させるように指示を出した。

 数週間後に提案書が全て出揃ったが、声を掛けた新たなベンダーの一つであるZZソリューションズから出て来た提案書の中に気になる記述を見つけた。

 厳密に言うと気になったのは提案書の中のプロジェクト体制図に書かれていたリーダーの名前だ。

 ——遠山未紗


 『まみ』さんと同姓同名だ。これはあの『まみ』さんなのだろうか?



 その後、ベンダー各社から提案書に沿ったプレゼンが行われた。思っていたようにと言うべきか当然と言うべきか各社ともにメインフレームの担当者はオッサンばかりだった。

 当たり前だ。平成生まれの若手社員にメインフレームなんて教育する会社があるはずがない。

 当たり前のようにメインフレーム担当のオッサンとオープン系システム担当の若手がペアになってプレゼンをする。

 やはり一つの頭で両方を俯瞰的に見ることが出来る人材は中々いないということみたいだ。


 さて、いよいよ気になってたZZソリューションズのプレゼンだ。ZZソリューションズの面々が会議室に入ってくる。

 その最後に入ってきた女性を見て僕はその女性に釘付けとなった。

 『まみ』さんだ! 間違いない。

 オフラインで会ったのは最初に参加した一度切り、いや会ったと言うよりも初オフ会で右も左も分からない中で見掛けただけと言うのが正しい。でも、あの時に見たリアル『まみ』さんの記憶はハッキリと残っている。

 これがリアルで仕事をする『まみ』さんなんだ!

 何も知らなかった僕らを夜な夜なチャットで導いてくれた『まみ』さんなんだ。


 あの『まみ』さんがプロジェクトを担当してくれるのならば提案内容はどうでも良い。『まみ』さんの仕事振りを間近で見てみたい。

 彼女の知識や経験は制約だらけの難題を抱えた実際のビジネスの場でどういう結果をもたらしてくれるのか。それをこの目で確かめたい。

 僕は自分の好奇心を満たしたい気持ちで一杯になっていた。

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