第118話 人生を賭けた夢

 可憐の心臓病の症状について、この前斉藤先生に聞いた。

 わかりやすく言うと、心臓近くの血管に血液が詰まっていて、血流の流れを悪くしているらしい。

 心拍数が上がると、発作が出たり苦しくなるのはそのため。

 最悪の場合は破裂して死んでしまうが、胸につけている機械の測定限界値の3倍ほどなのでよっぽどのことがない限りは大丈夫とか(例えばバンジージャンプとか絶叫マシーンとかよりも上)。

 その貯まった血液の塊を全て消すことができればいいのだが、現在の医療技術じゃ難しいとのこと。


 しかし、資料に記載されていたレーザー機器だと切開することなく少しずつ塊を削ることができるらしく、1〜2ヶ月ほどかかるが、塊を除去することが可能と記載されている。

 素人の俺がどれほどすごいことなのかよくわからないけれど、可憐や斉藤先生の反応を見た感じ、不可能だと思われた技術が可能になったという感じなのだろう。


「よかったな、可憐」


「……うん」


「治療費は約1億円だ 緋奈の友人だから全額出すつもりでいたが、株主の方に叱られてな…… 半分の5000万を提供する形に合意した」


「借金という形でも大丈夫です、一度母に相談してもよろしいですか??」


「まあ仮に君たちが優勝したとしても分割や税金で引かれ約2000万程度、日本の医療費軽減を込みしても2000万は必要だからな」


「……ん??」


「私の計算に何か間違いでもあったかな??」


「はい、計算では宇佐見さんに5000万を払うので7000万じゃないんですか??」


「ん、どうしてウチに払う必要があるんだ?? さっきも言っただろう提供だって」


「……はい??」


 可憐、俺、斉藤先生は状況が理解できず混乱した。


「というわけで、残りは悠也くんらに借りればいいんじゃないか??」


「いやあの…… そんな大金、受け取れません…… ボクはこの体で生きることを望みました その代償を友人とはいえ、あなた方に背負わせるわけにはいきません……!!」


「私としては病気を抱えても願いのために戦う、そんな子を応援したいんだ…… かっこいいじゃないか。それに別に5000万くらいいいんだ、ここだけの話うちの売上は……」


 緋奈ちゃんのお父さんは俺たち3人に聞こえるように小声で、昨年の売り上げを教えてくれた。

 売上額を聞いた瞬間、俺たち3人はあまりの金額で声が出なくなった。


(この金額は確かに5000万あげても、痛くないかも……)


 金額は次元が違かった。

 なんというか、俺たちが500円払うのと5000万円払うのが同等とかそういうレベル。

 多分、各国の政治家と同じくらいかそれ以上に稼いでいると思われる。

 靴を舐めてでもこの人についていけば、将来安泰な気がしてきた。


「社長、これ以上は企業秘密なのでそこまでで、皆さんもこのことは内緒でお願いします」


「は、はい……」


「まあそんな感じだ、んでここからが重要だが……」


(今のとこより重要なことあるんだ……)


 ナチュラルに5000万をあげるということや企業秘密を暴露したのを流したので、思わず俺は心の中でツッコミを入れてしまった。


「一応、明日の午前にハワイへ行く便がある ただ旅行船の一般乗車の枠で3枠、先生と可憐さんの2人で問題ないだろう もし病状が悪いなら世界大会を辞退してでも行くことは可能だ 来シーズン再挑戦という形でもいいんじゃないか??」


「……ッ」


「……ッ」


 俺と可憐は緋奈ちゃんのお父さんの言葉を聞いた瞬間、目を合わせた。

 ここまで頑張ってきた、可憐と一緒に戦ってきた。

 ずっと世界大会のために練習してきた、あの舞台に立つため寝る間も惜しんで鍛えてきた。

 でも、この提案は俺としては悪くないと思う。


 多分雪奈とレインは納得してくれると思う。

 仮に今回辞退しても、リーグ戦1位だったので冬に行われる来シーズンはAPAC NORTHプロリーグから参加ができて入れ替え戦をする必要がない。

 それに可憐が完治したら、きっと最強で負けなしの無敵のチームになる、ラリーや彩音たちを倒せるだろう。

 

「……可憐」


「……悠也はどう思う??」

 

「正直、俺は悪くない提案だと思う でも、これは可憐が決めるべきだ」


「……そっか、先生はどう??」


「看護師としては入院を進めます、でも可憐さんの意見を尊重します」


「……」


 可憐はじっくりと悩んだ末、緋奈ちゃんのお父さんに頭を下げた。


「ボクは世界大会に出たいんです……!! ここまで提供していただいたのにワガママを言って申し訳ございません」


「別にいつだろうがお金は出すつもりだ、可憐ちゃんの意見を尊重するよ ただ、もしも仮に大会中に悪化して最悪のことが起こっても後悔はないかな」


「後悔なんてありません」


「その心は??」


「あの舞台に立つため、ボクは人生の全てを賭けました その舞台で大好きなみんな戦いたいんです!! お願いします!! ボクを世界大会に出させてください……!!」


 可憐は涙を流しながら、自分の思いの全てを話した。


「なるほど…… それじゃあ大会の日に救急車を手配しておくよ、翌日から手術という感じでいいかな」


「本当にありがとうございます……!!」


 可憐は頭を再び下げて、感謝を伝えた。


※後書き

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