第117話 決戦の地

 有栖ちゃんとカフェへ行った翌日、俺と可憐と斉藤先生はstartubeのスタジオに呼ばれた。


「ふぁあ…… 眠いよ〜」


 可憐はあくびをして、涙目になった目元を擦った。


「寝不足か??」


「まあね〜」


「可憐さ〜ん また夜更かしですか……??」


「げっ……」


 可憐は怖い顔をしている斉藤先生を見た瞬間、目をそらして俺の後ろに隠れた。


「ご、ごめんなさい 先生〜」


「全く…… 大会近いとはいえ、体に気をつけてくださいよ」


「は〜い」


 世界大会は8月25日にハワイで行われる。

 ただ、世界大会組の選手たちはチームごとに参加する日が違えど、ブートキャンプと呼ばれるイベントに参加するため、大会の1週間前くらいに現地入をする。

 

 ブートキャンプに参加する理由は、時差の関係で大会は日本時間で深夜に行われる。

 なので事前に向こうの生活習慣に慣れ、パフォーマンスを安定させるためだ。

 そして現地にいる各国のプロと、遅延やラグを気にすることなく練習試合が行うことできるのも大きな利点だ。


 そんなことを考えながら歩いていると、会議室の前についた。

 俺はコンコンとノックをしたのち、可憐と斉藤先生と共に中へ入った。



「朝早くに申し訳ない、午後は会議が入っていてね とりあえず座ってくれ」


 会議室には緋奈ちゃんのお父さんとスタッフの女性の方が座っていた。

 俺はテーブル越しに迎え合わせ、横一列に座った。


「本日皆さんをお呼びしたのは、移動に関してです 今回は貸切の船での移動になりました」


 そう言って、スタッフの女性は資料を俺たちに配った。


「え??」


「……ん??」


「……貸切ですか??」


 俺たち3人は困惑しながら、資料を開いた。

 資料を見た感じ、中規模の旅行船で豪華客船と言っても差し支えないレベルの船だ。


「緋奈がどーしても船が良いって言ってたもんでね…… 皆さんは船大丈夫ですか?? 酔いやすいとかあったりしますか??」


「いえ…… 俺は特に…… というか資金的に大丈夫ですか??」


「ボクも大丈夫です」


「可憐さんの体の負担的に船の方がありがたいですが、貸切なんですか……??」


 俺たち3人は貸切ということに驚きを隠せなかった。

 いくら日本で5本指に入るレベルの財力とはいえ、日本からハワイまで貸し切るとなれば億レベルの資金がかかってしまう。


「取引先の旅行会社に格安でやってもらったから気にしなくて大丈夫だ」


「いや、気にすることですって……」


「いいんだ悠也くん、緋奈の思い出になるから!!」


 緋奈ちゃんのお父さんは、カメラを持ちながら俺に言った。

 なんか自分と彩音の小学校の運動会(俺が6年生、彩音が3年生の時)に父が新しいカメラを買ってきたのを思い出した。


(やっぱ緋奈ちゃん、愛されてんな……)


 まあでも、明るくて元気でまっすぐな緋奈ちゃんが可愛いのは事実だ。

 可愛がりたくなる気持ちも、すごくわかる。

 

「斉藤先生、可憐さんは船に乗っても大丈夫ですか??」

 

「飛行機は危険ですが、船は大丈夫です」


「なら問題ないですな」


 緋奈ちゃんのお父さんは、少しほっとした表情を浮かべた。


「ボクとしても有難いです…… 本当にありがとうございます」


「いえいえ、別に気にすることなく ただ…… 船ですと欠点がありまして……」


 緋奈ちゃんのお父さんがそういうと、スタッフの方がホワイトボードに日程を移した。


「ここからは私が説明します、船になりますと到着まで8日かかります 来週の水曜日出発なので本番5日前に現地入りとなります」


「なるほど…… となるとブートキャンプは4日間って感じですかね??」


 俺が質問すると、スタッフの人がうんうんと首を縦に振った。


「それに船の上ではインターネットが安定しません、なので必然的にゲームの練習時間が少なくなります」


「まあ…… そこは仕方ないですよ」


 心構えはしていたが、まあこれに関してはどうしようもないことだ。

 とはいえ、ただで費用を負担してもらうんだから文句を言うつもりはない。


「ただ、これだと君たちの腕が鈍ってしまうかもしれないと思い、急遽開発したのがこれだ」


 緋奈ちゃんのお父さんはそういって、スライドを次のものにした。


「エイム練習ソフトと、キャラクターコントロールソフト、それにマップ探索ソフトだ これは船のインターネットで動くソフトだから、みんなで練習できるものとなっている」


「まじすか……」


 俺は思わず、声が出てしまった。

 資料を眺めた感じ、その辺のアプリよりもクオリティが高く、1本のゲームといっても差し支えないほどの完成度だ。

 それができれば、ゲームがプレイできなくても腕が鈍ることはないと思う。

 俺が資料に目を通し、読み進めていると最後のページにハワイの病院のことが記載されていた。


 そこには、レーザー医療機器のことが記載されたいた。


「あの…… 可憐、斉藤先生」


 俺はそう言って、2人に資料の最後のページを見せた。


「ここからが本題です 可憐さん、あなたをここに呼んだのは……」


「……」


「可憐さんの心臓病を手術できる機械が完成したからです」


「……え ……嘘 ぐっす…… うぁあああっっ……」


「……よかった 本当に…… よかった……」


 緋奈ちゃんのお父さんの言葉を聞いた瞬間、可憐と斉藤先生は泣き崩れた。


※後書き

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