第115話 産まれるんです……

 美佳ちゃんのコーチングが終わった日のチーム練習後、有栖ちゃんからメッセージが届いた。


『お兄さん…… 毎日、美佳ちゃんと2人で練習…… もしかして…… 浮気ですか……??』


『浮気じゃないから!! 美佳ちゃんのフィジカル強化のための練習!! つーかこの練習は有栖ちゃんたちにとっていいことだろ、チームの勝利に繋がるし』


『確かに美佳ちゃんが以前より自信がついて…… 連携しやすくなりました……』


『だろ』


『なら、私も…… お兄さんに相談があるので…… 2日後の木曜日、空いていますか……??』

 

『いいよ、場所は事務所でいい??』


『いえ…… 2人でショッピングセンターに行きませんか……??』

 

『……え??』


 チャットでの会話中、突然デートの誘いのようなことを有栖ちゃんがいったので俺はチャットを打つ手が止まった。


『あ…… デートとかじゃないです…… まさか…… 勘違いしました……??』


 有栖ちゃんは俺の心を見抜いたかのような返信をした。


(特に期待してないけど、なんか悔しい……)


 緋奈ちゃんも小悪魔系だが、有栖ちゃんも同じような感じに俺を舐めている気がした。

 全く、素直な彩音を見習ってほしい。


『ま、まさか〜 いや別に暇だからいいけど、何かあるの??』


『それは来てからのお楽しみ…… です』


『いや待て、俺が行くとはまだ……』


『決勝戦の時に私のお願いを聞いてくれるって…… 約束しましたよね……??』


『そうだったな…… わかった、今日は遅いから明日予定決めよう』


『おやすみなさい…… お兄さん……』




 木曜日、俺はいつもよく着るパーカーに着替えてショッピングセンターへ向かった。

 俺たちは夏休みだが、世間的には平日なので結構空いていた。


 俺が事前に言われていた場所に行くと、有栖ちゃんがベンチに座っていた。

 有栖ちゃんは半袖の白いパーカーを着ていた。

 服選びが適当なもの同士、なんとなく親近感が湧いてきた。

 


「待った??」


「今来たところです…… では行きましょう、ここです……」


 有栖ちゃんはそう言って、近くにあった女の子の日常アニメとのコラボカフェに俺を案内した。


「みんなアニメとか興味ないから誘いづらくて…… お兄さんならいいかなって……」


「なるほどね」


「お兄さんはアニメ好きですか……??」

 

「少し前は見てたけど、最近は見てないな」


 俺がそういうと、有栖ちゃんは申し訳なさそうな表情をして下を向いた。


「そうでしたか…… ごめんなさい…… なら別に無理しなくても……」


「別に嫌いってわけじゃないよ、好きだよアニメ 最近はゲームしかしてなくて時間が無いから見ていないだけ、有栖ちゃんのおすすめあったら教えてよ」


 俺の言葉を聞いて、有栖ちゃんはパァーっと嬉しそうな表情をした。


「お兄さんを誘って、良かったです……」


「そりゃよかった、店の前にずっと居るのもあれだから行こうか」


「はい……!!」


 俺と有栖ちゃんはコラボカフェの中へ入った。

 内装は普通のカフェに、アニメキャラクターのパネルなどがあって割としっかりしている。

 有栖ちゃんがスマホでパネルの写真を撮ったのち、向かい合わせの席に座った。

 俺はメニュー表を手に取った。


「有栖ちゃんはお昼ご飯食べた??」


「私はまだです…… お兄さんは……??」


「俺もまだ、だから何か食べたいんだけど おすすめメニューとかある??」


「私も初めてなのであれですけど…… この子はアニメだとクレープ屋さんの一人娘なんですよ……」


「確かに美味しそうだね、ならこれにしようかな」


「私もそれで……」


 俺と有栖ちゃんはバナナクレープとカフェラテを注文した。


「そういやさ」


「なんですか……??」


「相談があるって言っていたけど、どうしたの??」


「あ、そのことなんですけど……」


「うん」


「産まれるんです……」


「え……」


 俺は思わず、脳がフリーズして反射的に有栖ちゃんのお腹の当たりを見てしまった。

 しかし、有栖ちゃんは別にお腹が膨れているようには見えなかった。


「お兄さんのえっち…… 私な訳ないじゃないですか…… お母さんです…… 弟ができるんです……!!」


 有栖ちゃんは顔を赤くしながら、俺に言った。

 隣の席に座っていたお客さん何人が、俺の事を冷たい目で見た。


 (そりゃそうだ、何言ってんだ俺!!)


「そうだよね!! ご、ごめん!!」


 俺は反射的に有栖ちゃんに土下座で謝った。


「……私も言い方良くなかったです」


 そんな会話をしていると、注文していたバナナクレープが届いた。


「とりあえず…… お兄さん、食べましょうか……」


「う、うん」


 俺は椅子に座り直して、バナナクレープを食べた。


「話を戻すけど、弟が生まれるんだ」


「はい……」


「めでたいことじゃん、それがどうしたの??」


「その…… 彩音ちゃんはお兄さんのこと、すごく褒めているんです……」


「そうなの??」


 確かに彩音が褒めてくれてるというのは、有栖ちゃん達と初対面の時から言われていたが、改めて言われると嬉しい。


「はい…… 私、頼れるお姉さんに慣れるか心配で…… どうしたらお兄さんのようになれますか……??」


「俺みたいか……」


 俺はバナナクレープを食べながら、自分が頼れる存在なのを考え始めた。

 

※後書き

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