第114話 私はお兄さんの特別になりたいです!!

「美佳ちゃんの気持ちはよくわかるよ…… どれだけ試行錯誤しても答えが見つからないって感覚」


「私は、どうすればいいのでしょうか……??」


「とりあえず、涙拭こっか」


 俺はティッシュを美佳ちゃんに渡した。

 美佳ちゃんはメガネをあげて涙を拭き取った。


 正直、今から未来視をマスターするのは不可能だ。

 あの彩音でさえ、過去の配信のアーカイブを見た感じランキング1位を目指す配信の途中からできるようになったので、半年以上は練習していたと思われる。

 俺は3日で習得したが、それはソロランクで前線に立って1人行動で得た経験値があったからできた。

 それに加えて彩音のレッスンで7割、北アジア1位チームになるまでの激闘をしてきたがまだ7.5割程度しか出来てないない。

 その神業をノートがあるとはいえ、来月の世界大会までに間に合わせるのは時間が足りない。


(……待てよ??)


 俺がどうにか彩音たちのチームがレベルアップできないか頭で考えていると、つっかかるところがあった。

 それは分断されるという点だ。


 連携さえ取れていれば鉄壁のチーム、それを崩すために分断するというのは相手側から見て当たり前な攻略法だが、どうしてそんなに分かりやすい弱点が通っているのだろうか。

 実際ほかのチームと対戦してる時は分断されていないし、何かあるような気がする。

 とりあえず百聞は一見にしかず、試合のリプレイを見れば何かわかるだろう。


「試合のリプレイを見ない?? 俺の視点からもアドバイス出来ると思うからさ」


「……はい」


 俺たちはこの間の大会のアーカイブを見直すことにした。

 美佳ちゃんはソファーから立ち上がり、さっきゲームをしていた場所に座り、俺は後ろで立って画面を見た。

 2試合目は連携が取れて勝っていたので、問題の1試合目を見始めた。


(……やっぱり、まあそういう感じか……)


 俺が違和感を感じたのは、間違いではなかった。

 美佳ちゃんの撃ち合いの仕方は自信がないというか、なんというか迷っているように見えた。


「美佳ちゃんはこのタイマンの時、何を考えていたの??」


「えっと…… 緋奈や有栖と合流しないとって気持ちでいっぱいでした」


「どうして??」


「私じゃ、この方に勝てるか不安だったからです……」


 美佳ちゃんの返事を聞いた瞬間、俺はグランディネアとの試合の時を思い出した。

 俺もあの時、圧倒されて勝てないかもと弱気になっていた。

 でも、俺はあの時なんとか乗り越えられた、乗り越えられたからこそ美佳ちゃんにアドバイスしなくちゃいけないことがすぐに思いついた。


「美佳ちゃんは勝ちたいよね??」


「当たり前じゃないですか、勝負事である以上勝ちたいに決まっています!!」

 

「なら、負けること前提で勝負をしちゃダメだ」


「……ッ」


 美佳ちゃんは俺の言葉を聞いて、ハッとした表情を浮かべた。

 

「そうですよね…… 当たり前のことを見失っていました、お兄さんは私の改善点をすぐに見つけられてすごいですね……」


「……いや、俺じゃないよ 見つけたのは美佳ちゃんの言ってた特別と呼ばれる人たちだ」


 見つけたのは俺じゃない、可憐とグランディネアだ。

 2人に追いついた気持ちでいたが、今思えばあの弱点を即座に見抜けるあたり俺もまだまだ強くならないといけないと思った。


(俺もまだまだ未熟だな……)


「……え??」


「俺も決勝でグランディネアに勝てる気がしなくて弱気になってた、でもあいつらが俺に教えてくれたんだ 最初から負けること考えていたらダメだって」


「……」


「俺も特別なんかじゃない、だからさ美佳ちゃん 特別じゃないもの同士、一緒に特訓をしないか??」


「特訓ですか…… 具体的にどんなことをするんですか??」


「そうだな…… んじゃあ、毎日あるチーム練習の前に俺と5回タイマンをしよう。1回でも俺の体力をゼロにしたら特訓はおしまい、本気の俺に勝てれば多少なりとも自信付くと思うし」


「わ、わかりました…… でも本気のお兄さんに勝てるでしょうか……」

 

「こらっ、弱気禁止 常に想像するのは勝利した自分だよ」


「は、はい そうですよね!! がんばります!!」


「あと、立ち回りは考えなくていい 試合の状況や流れ、相手によってケースバイケースだし…… というか自信をつけるのが先かな」


「了解です!!」


 仮のコーチという立場だけど、立ち回りに関しては口出しするはない。

 理由は俺が作戦を指示したら彼女たちの成長にならないし、何より俺たちと戦う時に作戦が筒抜けだとズルした感じがして嫌だからだ。

 俺に勝つ作戦を考えてきてもらった方が、ライバルの立場としては燃える。


「んじゃあ、今日からがんばろうね」


「はい!!」


 こうして俺と美佳ちゃんの個人レッスンが始まった。

 最初の2日は圧勝で終わった、しかし3日目から俺の体力を半分近く削るくらい成長して、7日目の5試合目ギリギリの戦いだったが俺は敗北した。


「その動き、まじか……」


 以前の美佳ちゃんとは思えないくらい、成長した戦闘スタイルで思わず独り言を言ってしまった。

 やっぱり彼女たちの成長スピードは桁違いなんだと改めて思った。


『わ、私 お兄さんに勝てました!!』


『おめでとう、よく頑張ったね』


『お兄さんのおかげで自信がつきました、本当にありがとうございます!!』


『この感覚を忘れず、世界大会がんばろうね』


『あの…… 今少し、通話してもよろしいですか??』


『うん、時間あるからいいよ』


 俺がチャットを送ると、美佳ちゃんから通話がかかってきた。


「どうしたの??」


「強くなれたのが嬉しくて……」


「そっか、他にも何かあれば言ってね」


「はい!! あの…… お兄さん」


「ん??」


「私はお兄sんの特……にnりたいです!!」


 美佳ちゃんは小声で何かを言った。

 インターネットの回線が不安定なのか、ところどころ途切れて聞こえなかった。


「ごめん、回線が悪くて聞こえなかった…… もう一度言ってもらってもいいかな」


「な、なんでもありません!! そろそろ彩音ちゃんたちと練習始まるので失礼します」

 

「お、おう…… お互い頑張ろうね」


「はい!!」


 美佳ちゃんは元気よく返事をして、通話を切断した。



※後書き

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