第113話 私も特別にならないといけないんです!!

 レインと練習した日の夜、俺たちのチーム練習が終わった後、美佳ちゃんからメッセージが届いた。

 

『あの、お兄さん 明日って予定ありますか??』


『特に予定はないよ、どうしたの??』


『立ち回りについて相談したいんですが…… よろしいでしょうか??』


『いいよ、明日チーム練習ないから21時頃でもいいかな』


『あ、いえ…… 実際に対面で教えてもらってもよろしいですか??』


『わかった、何時頃にstartubeのスタジオに行けばいい??』


『なら、14時頃にしませんか??』


『おっけー おやすみ』


『はい、おやすみなさい』


 


 翌日、俺は半袖の白いロゴ入りのTシャツと藍色のジーンズという夏らしい格好に着替えてからstartubeのスタジオへ向かった。

 彩音も来ると思っていたが、母と買い物へ行ったのでどうやら来ないようだ。


 俺が昨日レインと練習した部屋のドアを開けると、美佳ちゃんはすでに来ていてゲーミングチェアに座っていた。


「お待たせ、待った??」


「いえ、私も今来たところです 急に呼び出してごめんなさい」


「いいよ、特に予定もないし…… それに俺も練習したいって思ってたからな」


「そうですか、では対戦お願いします」


「タイマンだけど、大丈夫??」


「はい、よろしくお願いします」


 こうして俺と美佳ちゃんのタイマンが始まった。


「はあっ…… はぁっ…… お兄さん、強すぎます……」


「そうか??」


 試合は10-0で全勝した。

 指揮をする頭脳タイプの美佳ちゃんと、ファイトで破壊するフィジカルタイプの俺ではそもそも役割が違うのでこうなっても仕方ない。

 というか自分で言うのもあれだが、1度とはいえグランディネアに勝った俺は北アジアじゃ5本指に入るくらい強い。


「ちょっと休憩してもいいですか??」


「うん、そうしようか」


 俺と美佳ちゃんはソファーに並んで座った。

 美佳ちゃんはバックからノートを取り出して、そのノートを読み始めた。


「何のノート??」


「あ、これは彩音ちゃんのノートです 未来視の練習に使ってたもので全ての弾丸の軌道とか書いています」


「へ〜」


 確かに表紙に書いている『練習ノート』という文字は彩音の字だ。

 彩音がどうやって練習してたのかわからなかったが、確かにノートで自分なりまとめるというのは、彩音らしい方法で納得がいった。


「無くしていたらしいですけど、最近見つけたらしいです。彩音ちゃんはお兄さんにも見せていいよーって言ってましたが読みますか??」


 美佳ちゃんはそう言って、閉じたノートを俺に渡した。

 ここには彩音の未来視のカラクリが書かれている。

 この内容を全て理解したら、俺は彩音に勝つことができるだろう。

 

 だがこれを見たら、俺は負けな気がした。

 勝負で勝てるかもしれないが、知識では負けている。

 いわば彩音の導き出した答案を写す様なものだ、そんなの攻略したとは言えない。

 

「いや…… 俺は見ないでおく」


「どうしてですか??」


「俺の力で攻略したいから」


「なるほど…… お兄さんらしいですね」


「そうか??」


「はい!!」


「美佳ちゃんはどうしてこれを持ってたの??」


 俺がそういうと、美佳ちゃんは両手をグッと握りしめて悔しそうな表情をした。

 

「……私も特別な存在になりたいからです」


「特別な存在??」


「はい、私もお兄さんや彩音ちゃんや可憐さんのように強くなりたいんです!!」


「美佳ちゃんは、今のままでも十分強いと思うよ」


「今のままじゃダメなんです!!」


 美佳ちゃんはいつも以上に大きな声で悔しそうに俺や言った。

 見たことない美佳ちゃんの顔で俺は驚いた。


「……美佳ちゃん??」


「すみません、お兄さん 取り乱しちゃって……」


「いや、別にいいよ 美佳ちゃんたちも北アジア1位だったけどそれでも不満ってこと??」


「それは…… 彩音ちゃんが強いからじゃないですか……」


「……」


「私はあの試合何も出来なかった…… いつもは確かに勝てているけれど決勝では彩音ちゃん頼りで1対1も私が1番苦戦していました 緋奈は対面能力が高い、有栖はスナイパーでの援護能力が高い 私って何が出来るんですか??」


「いや、でも…… 美佳ちゃんの指示は的確で集団戦で高い勝率を出すのは君のおかけだろ!!」


 俺が彩音達に勝てるか怪しいと思っているのは、美佳ちゃんの指示による連携戦術が強いからだ。

 彩音の未来視は、多分少し未来を予想した物からなっていると思うので美佳ちゃんの冷静な状況判断による索敵能力があるから本来以上のポテンシャルを出している。

 緋奈ちゃんの自由な爆発力のある対面戦闘も、有栖ちゃんの援護射撃も同様に美佳ちゃんの索敵能力があるから強化されている。


「でも、私たちの戦術は決勝同様に封じられてタイマンになってしまう そうなったら対面能力の弱い私はチームの足を引っ張ると思うんです……」


「……」


「だから私も未来視を手にして、特別にならないといけないんです!!」


 美佳は半分泣きながら、俺に言った。

 まだ始めて1年未満でプロリーグに入ったから経験不足で仕方ないかもしれないが、プロである以上ハッキリとしたことをいうと彩音頼りチームであって美佳ちゃんの言うことは全て正しい。

 予選では通用していたが、決勝は彩音がマリベルに勝てなかったら負けてたと思えるくらいギリギリだった。

 別に彩音以外活躍してないというわけじゃないし、みんな頑張っている。

 とはいえ、世界を相手にするとなれば今のファイト力じゃ確実に厳しいのも現実だ。


 涙を流し悔しそうに泣く美佳ちゃんの頭を俺は優しく撫でた。


※後書き

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