第111話 今はお前が主人公だ
可憐の病院へ行った翌日、俺は朝早くからstartubeの事務所で自分の使っているキーボードの企業案件を受けていた。
俺の使っているものは、あまり界隈で使われているものではなかったので俺に案件がきた。
まあ一応俺は北アジア最強チームのリーダーということで、案件をくれた企業の宣伝効果は期待できると思う。
「緋奈たちは使ってないからどーしようかと思っていたが、悠也くんが愛用してるっぽくて助かったよ」
案件のインタビューや実際にプレイしているところの撮影が終わり、部屋を出ると緋奈ちゃんのお父さんがいた。
「いえいえ、俺もこのキーボード好きなんで、たくさんの人に使ってもらいたいな〜とは思っていたので」
「なるほどな、そういえば君たちから送られてきたお金だが君たちの口座に戻しておいた」
「……はい??」
「最近、世界大会の影響でラグナロクフロンティアの配信者が増えてきてうちの収益も右肩上がりだし、その代表の君たちには感謝している。それに彩音ちゃんたちにもお小遣いとして渡したから、君たちも受け取りたまえ」
「い、いいんですか??」
「いいとも!! んじゃあ私は会議があるから、お先に失礼するよ」
緋奈ちゃんのお父さんはそういって、小走りで会議室へ向かった。
俺は夏休みで午後の予定が特にないので、自主練用のパソコンがある部屋へ向かった。
部屋のドアを開けると、レインが部屋で練習していた。
「なんだ、YUUか」
「来てたんだ」
「家のヘッドセットの調子が悪くてな、通販で頼んだから明日届く」
「そっか」
しばらく無言が続いた。
地味にレインと2人っきりで話すことが一度もなかったから、正直何を話せばいいかわからなかった。
「なあYUU」
俺が脳内で会話の内容を考えていると、レインが口を開いた。
「何??」
「その、なんつーか…… ありがとな」
「は??」
「俺の力だけじゃ、世界大会にはいけなかった 認めてやる、今はお前が主人公だ」
レインはどこか照れた感じで俺に言った。
「ふっ…… なんじゃそりゃ」
俺は思わず、ふっと笑ってしまった。
「何がおかしい」
「お前の口からそんなセリフ、聞けるなんて思わなくてさ」
「だが勘違いすんなよ、今はお前が主人公かもしれないがいずれは俺が主人公になってやる」
「ああ、やってみろよ それでこそお前だ」
「んじゃ、一緒に練習しようぜ」
こうしてレインとの練習が始まった。
エイム練習や立ち回りなど、いろいろなことをしていると気がつけば12時になっていた。
「流石だな、グランディネアを倒したのも納得できる」
「まあね……」
「なんか不満そうな顔だな」
「まだラリーや彩音に勝てるビジョンが見えなくてさ……」
「ラリーはともかく、お前の妹も確かにすげぇ強い 未来視の鉄壁の防御は崩すのが不可能に近い」
「うん」
「ただ世界組のエイムは地域予選と比べて格段に上、そんな相手に対してどれほど彩音さんが体力を温存して予選を抜けられるか」
「確かにそれは課題だと思う」
実際、彩音の未来視は結構体力を使う。
俺もできるが、彩音ほど常時発動すると脳が疲れて一瞬でばてる。
彩音ができてるのは多分頭の回転が早くて、瞬時に状況を整理できる頭の柔らかさがあるから成り立っている。
世界最強のプレイヤー、ラリーですらやってないのを見るに常人がやるものではない。
そんな彩音でも、この前の地域予選決勝で疲れてきたようだ。
世界大会は12チームをABCDの4つのブロックに分けての総当たりで、各ブロック1位を決め4つのチームでトーナメントを作る。
仮に決勝まで残れば試合数は全試合2勝0敗でも、10試合もある。
グランディネアと同等かそれ以上の連中がたくさんいる大会で、決勝まで未来視を使い続けるのは不可能だと思う。
なので、あいうえクランの課題はいかに彩音の負担を軽減して決勝まで温存できるかだと思う。
緋奈ちゃん、美佳ちゃん、有栖ちゃんがさらに強くなって彩音を温存できたら、世界大会優勝するのも夢じゃないとコーチとして彼女たちの練習を見ている立場からでもそう思える。
「まあとはいえ、弾丸の軌道を瞬時に予測してオートガードのような最小限の回避で残りを攻撃に全振りできる そんな高等技術世界でたった1人しかできないあたり、才能はとてつもない 北アジア最強という称号にふさわしいかもな……」
「だろ」
レインが彩音のことを褒めたのが嬉しくて、思わずドヤ顔してしまった。
「シスコン野郎が」
「うっせ」
こんな感じの他愛のない会話をしていると、俺のお腹の音がなった。
「腹減ってきたな、とりあえず今日はこの辺にしとこ」
「そうだな」
「そういえばレインって一人暮らしだっけ、昼飯どうしてるの??」
「俺はここの食堂で食ってる、一食300円で格安だ」
「やっす、メニューはどんなの??」
「日替わり定食や牛丼、ラーメンなんでもある値段は一律だ」
「すっご、さすがstartube」
「腹減った、俺は食堂に行ってくる」
「そっか、なら一緒に食い行かない??」
「勝手にしろ」
「勝手にさせてもらう」
俺はレインの後ろをついていき、食堂へと向かった。
※後書き
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