第110話 ボクの生きた証を残したかった

「そーいやさ、可憐ってなんで本名でやってんの??」


 俺は可憐の近くに置いてあったりんごの皮を果物ナイフで切りながら問いかけた。


「今更どーしたの??」


「ああいや、ほらさ 本名でやってると特定というか、身バレというか、そういうのあるんじゃないかなって思って」


 FPSゲームの民度はそれほど良くない。

 めんどくさいプレイヤーに絡まれた場合、粘着されたりすることも多々あるので身バレは絶対したくない。


「大丈夫〜 ボクのことを今まで特定できたのはラリーだけだよ〜」


「世界王者に特定されたって、普通に笑えないと思うぞ……」


 どのような経緯でラリーと知り合ったのかわからないけれど、信用のできる人だとはいえ身バレ自体はしたことを軽くいう可憐の適当さは可憐らしいといえばらしいが心配になる。


「気にしな〜い ちなみに悠也はなんでだと思う??」


「なんでだろ…… 可憐のことだから、適当に決めたとか名前決めるのがめんどうだったとか??」


「悠也はボクのことをなんだと思ってるんだ……」


「適当でゆるいボクっ娘、はいよ りんご切ったぞ」


 俺が可憐の印象を話すと、可憐は少々不満そうな表情で俺を見つめた。

 俺は一口サイズにカットしたりんごを可憐に渡した。

 不器用なりに全力を出したが、ぐにゃぐにゃと歪な形をしたリンゴを見て可憐はくすっと笑った。


「下手だね〜 いただきます〜」


「下手で悪かったな…… いたっ……」


「大丈夫??」


 俺は自分の手を見ると、手のひらを少し切ってしまっていて血が出てきた。


「待っていて〜」


 可憐はベットから立ち上がって、棚の中から救急箱を取り出した。


「絆創膏、貼ってあげる??」


 可憐は絆創膏を手に取って俺に言った。


「いいよ、自分で貼る」


 俺は可憐から絆創膏を受け取り、血の出ている場所に貼った。

 可憐は俺をからかいながらも、おいしそうにりんごを食べた。


「一応不器用なりに全力は出した、そういう可憐の腕前はどれほどすごいの??」


 俺はそう言って可憐にリンゴと果物ナイフを渡した。


「ま、見てなって〜」


 可憐は俺の渡した果物ナイフを使って、りんごを切り始めた。

 サクサクとりんごを切り、うさぎのような形ができた。


「え、何それ凄い……」


 もはやアートの域というか、俺には到底できないレベルで思わず声が出てしまった。

 何気にいつも適当な可憐が、ここまで器用ということを初めて知った。


 (なんか悔しい……)


 さすがに可憐よりは上手くできる自信があったので、俺は心の中で悔しがった。


「暇な時に練習してたからね〜 悠也も練習したら??」


 可憐はそう言って、うさぎの形をしたりんごを俺に渡した。


「んじゃあ、これからお前の病院来るたびに教えてくれ」


「いいよ〜 師匠と呼んでくれてもいいよ〜」


「それはやだ」


 可憐は笑顔で俺に言った。


「いただきます」


 俺は可憐に渡されたりんごを食べた。

 どこ産のりんごかわからないが、肉厚で甘くて美味しい。


「さっきの質問の答えだけどさ…… ボクはもともと長く生きられないって言われてね……」


「……え」


「あ〜違う、違う 今すぐやばいってわけじゃないよ〜 ゲームのアカウントを作った時ね、その時は初期症状で詳しく分からなくて短いかもって言われてただけ 今は悪化しない限り、寿命まで生きられるよ〜」


「……そ、そうか」


 一瞬、可憐の病気が危ないと思い動揺して食べていたりんごが変なところでつっかえた。

 俺は水を飲んでりんごを流し込んだ。


「うん、全然元気だよ〜 だからリラックス、リラックス〜」


 可憐はそう言って、ベッドから立ち上がり俺の肩を揉んだ。

 ただ、いつかその時が来てしまったら向き合わないといけないということを再び認識させられた。


「肩、凝ってるね〜」


「まあ、いつも座りっぱなしだからか……」


「無理しすぎず、たまには休もうね〜」


「ああ…… 何度も言うが苦しくなったら、俺のこと頼ってくれ……」


「うん、そうさせてもらうね〜 まあそんなところで話を戻すけど、本名を使った理由はボクが生きた証を残したかったからかな〜」


「……かっこよ」


 可憐が本名でゲームをしている理由が思ったよりもかっこよくて、それでいて可憐らしい理由だった。

 

「そうかな〜」


「うん、それにその作戦も大成功したんじゃない??」


 KARENという名は知る人ぞ知る最強プレイヤーとして、確実に一部のプレイヤーの胸に刻まれている。

 第1回世界大会で優勝したラリーが認めたり、俺が世界大会に行くことをSNSで投稿した後に世界中のプロにフォローバックされるのを見ると、好かれているというか、それだけ凄いやつだっていうのが伝わってくる。

 破壊の女王として、恐れられていたかもしれないが恐れられるほど強くて印象に残るのはいいことだと俺は思う。


「ん〜でも まだ足りないかな〜」


「そうか?? ならその作戦は具体的にどこまでいったら達成??」


「優勝トロフィーに名前が刻まれたらかな〜」


 可憐はにこっと笑顔で俺にいった。


「そっか、なら絶対優勝しような」


「がんばろうね〜」


※後書き

読んでいただきありがとうございます!!

よろしければ、左上にあります星をクリックや感想、ブックマークをしていただけると今後の活動の励みになります!!

https://kakuyomu.jp/works/16817330654169878075#reviews


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る