第109話 大会賞金の使い道は……

「まじか…… 夢見たいだ……」


 風邪が治った日の翌日、俺は学校の終業式が終わったのちに銀行で残高を確認すると大会賞金50万円が入っていた。

 ラグナロクフロンティアのプロリーグは各リージョンの予選突破2チームに3万ドル、決勝落ちの2チームに2万ドル、その他16チームに3000ドルが配られる。

 突破チームと落ちたチームで差がないのは、世界大会に行けた時点で5〜12位(予選落ち)しても追加で3万ドル、3位(3位決定戦がないので同率)で30万ドル、2位40万ドル、1位50万ドルという大金がもらえるからだ。

 とはいえ、4人チームのゲームなのでメンバーとの分配(この辺はチームの方針次第だけど、俺たちや彩音たちは完全な4分割)、旅費や経費、日本だと税金関係で実際にもらえる金額は少なくなるが、とはいえ結構もらえる。

 緋奈ちゃんパパに賞金のことを聞いた時、ただでいいとは言ってくれたが、流石に申し訳ないので1人5万円ずつは払うつもりでメンバー全員で話をつけている。


(俺たち全員の世界大会への移動費と1週間の旅費全額出してもらうのは流石に申し訳ないしな……)


 余談だが俺たちは税金関係の仕組みがよくわからないので、startubeの運営の方に全部任せた。


 とりあえず俺は50万円をおろして封筒に入れ、家に帰った。

 

 

「母さん、これ」


「何?? え……??」


 俺は母に20万円を渡した。


「中学最後に引きこもって、すみませんでした」


「そんな…… 別にいいのよ、あなたの稼いだお金なんだから」


「いいから受け取って、これは俺のケジメだから」


 中学最後という、義務教育最後の思い出を作る機会にいじめなどではなくゲームをしたいからという理由で引きこもった俺を許してくれた母に結果を示すためにお金を渡した。

 引きこもった結果俺だけの力ではないとはいえ、こうして賞金を得られるくらい強くなれた。

 母が許してくれなければ、今のステージに俺はいない。

 だから許してくれた母に、最低限の恩返しをするべきだ。

 

 お金で解決できるものではないというのはわかるが、この行為があるのとないとでは、この先の人生で大きく何かが変わると俺は思った。


「そこまで言うなら、もらっておくわね」


「うん、んじゃあこの後俺行かなきゃ行けないところあるから」


 俺はそう言って、学校の荷物を片付けてから家を出た。




 

 

 

「お久しぶりです、斉藤先生」


 俺は母に20万円を渡したのち、可憐の入院する病院へ向かった。


「お久しぶりです悠也さん、大会の日以来ですね 可憐さんに面会ですか??」


「それもあるんですが、その前にこれを……」


 俺は身につけていたボディバックから封筒を取り出して、10万円を出した。

 母に渡した20万円、生活費やらで15万円、startube運営に5万円、残りの10万円をここへ持ってきた。


「これは??」


「これ、全額可憐の入院費に使ってください」


「はい??」


「では、俺可憐のところ行くんで帰る時また寄りますね」


「ま、待ってください」


 エレベーターの方へ向かう俺を斎藤先生は呼び止めた。


「こんな大金、受け取れません…… それに可憐さんも多分、悠也さんにお返しすると思います」


「だから俺は先生に渡しました」


「……」


「あの一瞬…… いや、あの時だけじゃない…… 俺は可憐がいたからここまで来ることができました、1日でも早く治ってほしいんです」


 実際俺は可憐がいたから、世界大会に行けたようなものだ。

 寄せ集め時代に現実を見せられ、どん底だった俺に光を見せてくれた。

 確かに彩音たちや雪奈、レインも俺の力になってくれた。

 でも、最も俺を成長させてくれたのは可憐だ。

 

 そんな可憐が1日でも早く、心臓病が治るのを心から望んでいる。


「……わかりました、このお金は預かっておきます ですがまだ明確な治療法が見つかってないので、預かるという形を取らせていただきますね」


「ありがとうございます、では行ってきます 5時頃またきます」


 可憐の心臓病は先天的なもので、明確な治療法が見つかっていない。

 ただ、緋奈ちゃんのパパが言うにはアメリカのレーザー治療の研究が進めば治療できるかもという情報を聞いた。

 

 今は入院で症状を抑えている状態だが、いつか元気になった可憐と雪奈、レインと一緒に世界大会の舞台に立ちたい。


 そんなことを考えながら歩くと、可憐の病室の前についた。

 コンコンと病室のドアをノックしたのち、可憐のいる病室へ入った。


「よっ 大会の日ぶり」


「リアルで会うのは久しぶりだね〜 なんの用〜??」


 可憐は相変わらず、病衣を着て日の光を浴びて日向ぼっこのようなことをしていた。


「特にこれという用はない、ただ会いにきた」


「なに〜?? まさかボクに恋しちゃった〜?? まあボクはセクシーだしね〜」


「どこがセクシーだ……」


 俺は可憐の無いとは言わないまでも彩音と大差ないものを見てぼそっと言うと、可憐はジト目で俺を見つめた。


「冗談、悠也は彩音ちゃんガチ恋だもんね〜」


「ほっとけ!!」


「まあでも、悠也に会えて嬉しいよ〜」


「そう言ってもらえると俺も来た甲斐があった」


 俺は可憐の隣に置いてあった、パイプ椅子に座った。


※後書き


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