第108話 私は悠也くんを王にしたいです

「悠也くん、えっっな本とかないんですか??」


 雪奈はそう言って、俺のパソコンの横に置いてあった少年漫画を手に取った。


「ねぇよ」


「彩音ちゃんの卒アルとかって……」


「なんで俺が持ってんだよ…… 家のどっかにあるだろうけど、お前にはみせねぇよ」


「え〜 いいじゃないですかぁ〜」


 風邪で頭痛がして、今すぐにでも寝たいという状況だが、雪奈が一生話しかけてきて眠れなかった。


「……ったく、今お前や緋奈ちゃんの元気を少しわけてほしい」


「え、緋奈ちゃんを呼ぶんですか?? ふへへ……」


 緋奈ちゃんの名前を出した瞬間、雪奈はニヤニヤとした表情をした。


「相変わらず、お前はあの子たちのファンなんだな……」


「とーぜん!! 私の生きがいですから!!」


「そっか……」


 そんな話をしていると玄関の開いた音が聞こえた。

 時間的に彩音だろう。


「多分彩音だと思う……」


 俺はそう言って立ちあがろうとすると眠気に襲われた。

 多分さっき飲んだ薬が効いてきたのだろう、俺はベッドの上で眠りについた。








「寝ちゃいましたか」


 雪奈はそう言って、悠也に布団を上からかけたのち荷物を持って階段を降りた。

 階段を降りると、そこには中学校制服を着た彩音が靴を脱いでいた。


「ふぉぉ!! じゃなくて、ごほんっ…… おじゃましていました!!」


 雪奈は制服姿の彩音を見た瞬間興奮をしたが、悠也が上で寝ているのを思い出して興奮した感情を抑え込んだ。


「雪奈さんだったんですね、お兄ちゃんは大丈夫ですか??」


「悠也くんは2階の部屋で寝ています、体調良くなってきたとは言ってました!!」


「雪奈さんがお兄ちゃんの看病してくれたんですね、ありがどうございます〜」


「いえいえ テストとかプリントとか渡さなきゃいけなかったので、彩音ちゃんがいるようでしたら私は帰りますね」


 雪奈は玄関で靴を履こうとした。


「時間ありましたら、何か飲んで行きませんか??」


「いいんですか??」


「いいですよ〜」


「では、お言葉に甘えさせていただきます!!」


 雪奈と彩音は茶の間へ行った。

 雪奈はに座って、彩音はキッチンへ行ってポットでお湯を沸かした。


「コーヒーとココア、どっちがいいですか??」


「ココアでお願いします!!」


「了解です〜!!」


 彩音はココアを2つ用意して、雪奈の隣に座った。


「お兄ちゃんのテスト対策や看病をしてくれて、ありがとうございます〜」


「いえいえ〜 彩音ちゃんはテスト大丈夫でしたか??」


「うーちゃんはギリギリでしたが、みんな無事に赤点回避できました!!」


「それはよかったです、彩音ちゃんって勉強得意なんですか??」


「まあそれなりにはって感じです!!」

 

 どこか誇らしげな彩音の表情を見て、雪奈はぐへへとニヤニヤし始めた。


(ふぉぉぉ……!! 彩音ちゃん可愛すぎます!!)


「雪奈さんって不思議な人ですね、楽しそうっていうか元気いっぱいで正直うらやましいな〜」


「そ、そうですか??」


「はい!! いつもありがとうございます!!」


「なんかそう言われると、ちょっと…… 照れちゃいます〜」


 雪奈は彩音に褒められたことで顔を赤くした。

 照れている雪奈を見て、彩音はふふっと笑いココアを飲んだ。


 こんな感じの日常会話をしていると気がついたら5時頃になっていて外は暗くなり始めていた。


「暗くなってきたので、そろそろ私帰りますね」


「雪奈さんとお話しするの楽しかったです!! 最後に1つだけ質問してもいいですか??」


「はい、なんですか??」


「雪奈さんはどうして、世界大会を目指しているんですか??」


「どうして……ですか??」


「私、気になっていたんです 可憐さんやレインさんはゲームが好きで目標を叶えたいって感じでわかるのですが、雪奈さんはどちらかというとゲームの練習よりもみんなのサポートというか手助けをしているじゃないですか」


「はい」

 

「なんというか負担になっていないか、私心配で……」


 雪奈は悠也と彩音と一緒に帰った日、マネージャーに任命されてから彩音たちの練習にも参加していた。

 悠也たちとの練習がメインではあるが、可憐が週2でできないのでその日に参加している。


 レインと悠也は個人練や世界大会組の配信を見て勉強していて、疲れを極力溜めないようにしているが雪奈はチーム練習以外の日は彩音たちとの練習+彩音たちの配信の切り抜き等の仕事もやっていた。

 元々はスタッフがやっていたが、雪奈が試しにやった回が10倍近くの再生数を出したので、アルバイトとして雇われた。

 それに加えテスト勉強などもあり、彩音は心配そうに雪奈に言った。


「私は悠也くんを王にしたいんです」


「……え??」


「私はもともと根暗で友達がいなくて学校でいつも1人でした、そんな私を仲間にしてくれて…… 彩音ちゃんを含め、たくさんの友達ができました!! その恩を返したいんです!!」


「……雪奈さんは、お兄ちゃんのことが好きなんですか??」


 下を向きながら口を開いた彩音を雪奈は優しく頭を撫でた。


「好きではないです…… 恩人というか憧れというか…… でも、仮に好きだとしても彼女にふさわしいのは彩音ちゃんだと思ってますよ」


「……ッ」


「私は彩音ちゃんを応援してます!!」


「……ありがとうございます」


「いえいえ、楽しかったです!! お邪魔しました!!」


 雪奈はそう言って、自宅への道を歩き始めた。


※後書き

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