第107話 最強になるための代償

「げほっ…… げほっ……」


 世界予選があった日から2週間後の金曜日、俺はベッドで寝込んでいた。

 この間に何があったかというと、期末テストがあった。


 しかし、俺は勉強を全くやっておらずゲームの研究やチームでのランキング戦をしていた。

 毎日ゲーム三昧、とはいえ補修で時間を取られるのも面倒なので重い腰を上げて雪奈からもらった対策プリントを始めたのだが、範囲が思っていたよりも多く、テスト前日に一夜漬けを3日間した。


 その結果終わった日の夜から体調を崩し、熱が出てしまった。


「……頭いてぇ」


 俺は体を起こし、体温計を脇に挟んで熱を測った。

 母親に渡された薬を朝に飲んだからか、気持ち程度熱は引いていたものの、高熱と言っても差し支えないほど体温が上がっていた。

 まあ幸いなことに、感染症のキットでは陰性と出たので1日寝込めば治るだろう。


「……お腹すいたな」


 腹の音が鳴った、時刻は12時、一応母におかゆのもとを用意してもらったが下の階へ行くのがだるく感じる。


 行くか、行かないかで悩んでいると、ピンポンとインターホンが鳴った。

 両親は仕事、彩音は学校なので来客だろう。


 正直体が重いのでまたの機会にきてもらおうとも思ったが、どうせ後からおかゆ食べたいと思ったら二度手間なので、俺はマスクをつけて階段を降りた。


 俺が玄関を開けると、そこにはマスクをつけた雪奈がいた。


「げほっ…… 雪奈か…… どうした??」

 

「今日は午前授業で、悠也くんが心配で来ちゃいました!! 体調はどうですか??」


「最悪って感じだ、お前も風邪うつらないうちにとっとと帰りな」


「いえ、そうもいきません 看病してあげるのでキッチン貸してください!!」


「お、おい……」


 雪奈はそう言って、強引に家に入った。

 

「あ、あとこれテストの結果です」


「わざわざありがと…… ってか、勝手に中身見るな」


「悠也くんだし、いいかなーって ちなみに欠点はなかったですよ!!」


「お前も優等生(笑)なんだかアホなんだか、わかんないな……」


 俺は雪奈から渡された、テストを確認した。

 全教科60点以上、数学と社会に関しては90点近くで予想よりも取れていた。


「おお……」


 想像以上に点が取れてたので、思わず声が出た。


「よかったですね、赤点がなくて」


「お前のプリントのおかげだな、ありがと」


「いえいえ、彩音ちゃんに頼まれたのでとーぜんです!!」


 雪奈はそう言って、梅干しの入ったお粥を俺の前に置いた。


「できました!!」

 

「いただきます ……げほっ げほっ…… なんか味薄くない……??」


 俺は風邪で味覚がおかしくなったのかと思い、再び口にお粥を入れるも梅の味はせず、まるで水を飲んでいる感じがした。


「……参考程度に聞くが、どのくらい水を入れた??」


「適量って書いていたので、ポットに入っていたお湯を全部入れましたよ!!」


「……やっぱりか」


 ポットに入っていた水は、お粥用のに加えてホットレモンを飲むように多めに入れてあった。

 その量の水が入っていたら、そりゃあ梅の味も消えるわけだ。


「えっと…… お口に合わなかったですか……??」


 雪奈は悲しそうな表情で、俺の前にあったお粥を片付けようとした。

 

「いや…… 風邪で味がよくわからなくてな、別に食べられなくない」


 そこまでまずいわけでないし、せっかく作ってくれたものを粗末にするのはよくないと思い、俺は再びお粥を食べ始めた。

 

「それはよかったです!!」


 雪奈はそう言って、俺の母親がいつも使っているエプロンを腰に巻いた。


「……どうした??」


「せっかくですので、もう1品何か作ろうかなと思いまして!!」


「お腹いっぱいになってきたから、今度頼む……」


 レトルト食品のお粥ですらできない雪奈に料理を作らせたらそれこそキッチンが爆発したり、謎生命体が生まれるような展開を感じ、俺は必死に止めた。

 






「ごちそうさま…… げほっ…… げほっ……」


 お粥を食べ終えてから薬を飲んで、俺は自室に戻ってベッドに倒れた。

 汗の滴る顔を雪奈は優しくタオルで拭いてくれた。

 

「大丈夫ですか……??」


「ああ…… 朝よりはマシになったと思う」


「そうですか、両親や彩音ちゃんは何時頃帰ってくるんですかね??」


「両親は夕方、彩音も4時頃だと思う」


「んじゃあ、彩音ちゃんが帰ってくるまで看病しますね」


「……うつると大変だから、とっとと帰ったほういい」


「彩音ちゃんの看病の方がいいですもんね〜」


「げほっ…… そういうことじゃねぇよ!! 単純にお前にうつしたくないんだ」


「私は大丈夫ですよ、天才なので!!」


 雪奈はえっへんといった表情のまま、熱さまシートを俺のおでこに貼った。


「まあ確かにお前は風邪ひかなそうかも……」


 テストの点は取れるが、人間性という意味ではアホな雪奈を見てバカは風邪ひかないという言葉がしっくりきた。


「なんで変なとこで納得してるんですかぁ〜!!」


「お前を見てると元気がもらえるってか、彩音の言ってたことが理解できたって思ってな」


「よくわからないですけど…… まあいいです」


 雪奈はそういって、俺のいつも座っているゲーミングチェアに座った。


※後書き

読んでいただきありがとうございます!!

よろしければ、左上にあります星をクリックや感想、ブックマークをしていただけると今後の活動の励みになります!!

https://kakuyomu.jp/works/16817330654169878075#reviews

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る