第83話 縛られている記憶
私たちは最終戦、『ROSE』の人たちと南国マップのリゾートで戦っていた。
(予想してたけど、美佳ちゃんと分断されちゃった……)
私たちは一定の距離で、美佳ちゃんの指示を聞きながら立ち回ってる。
いつもは分断される前に倒し切ることが可能だったけれど、お兄ちゃんが言っていた2位の方に押され、私だけ少し離れた位置に移動しなければいけなかった。
ここまで離されてしまうと、有栖のスナイパーによる補助、緋奈による乱入で詰んでしまった状況での仕切り直しも期待できない。
それにマリベルを除く3人の方々も相当な腕前で、みんなも1人相手するだけで手一杯な感じもするのでここは私1人で倒すしかない。
せっかくの機会だし、お兄ちゃんやみなさんに教えてもらったことを活かして世界レベルの方にどれだけ通用するのか試すいい機会だ。
「すげぇなお前、ほんとにあたんねぇ 未来視ってやつか、こんなのできるの世界中探しても1人もいないだろ」
マリベルは少し離れた距離からアサルトライフルを放った。
私は弾丸の軌道を読み、首を横に振ったり姿勢を低くする最低限の動きで全弾回避した。
「……」
(ただ、思ったよりも隙がない 私から仕掛けるのはあまり勝機が見えない……)
マリベルがリロードした瞬間、アサルトライフルを背中に背負ってサブマシンガンに持ち替えた。
最近他のプロチームの方々も、私の未来視の対策を知ったのか近距離戦を仕掛けてくる。
スタッフさんやお兄ちゃんたちが言っていた私を倒すための戦法、でもそんなわかりやすい弱点に気づかないわけもなく、私も近距離用のサブマシンガンを購入した。
グレネードやアサルトライフルの弾薬、装備レベルを最低限にして購入できるギリギリまで圧縮した。
ただ今のところ1度もサブマシンガンを使う機会がなくて、ここで持っていることを知られれば明日の大会で警戒されてしまう。
かといって、このままアサルトだけで戦うには弾薬も少ないし、ジリ貧で負けてしまうだろう。
せっかく世界大会に行った人とタイマンで戦えるのに、このまま負けるのは嫌だから、大会前日で手の内を晒す形になってしまうけど仕方ない。
(それにおそらく世界レベルの選手となれば、私の考えくらい読めてるだろうからわざわざ出し惜しみする必要もないかな)
私はアサルトライフルをしまって、サブマシンガンに持ち替えた。
「やっぱ、持ってるか…… とはいえ止まるわけにはいかねぇ」
マリベルは私に向かって真っ直ぐに詰めてきた。
私はサブマシンガンで反撃するも、ヤシの木や岩を遮蔽物にしながら避けられて目の前まで接近された。
(早いし隙が少ない、毎日エイム練習してるけど 1発も当たらないなんて)
「もらった!!」
マリベルは私のサブマシンガンを強引にひっぱり、私の手からサブマシンガンをとって海側に向けて投げ捨てた。
勝ちを確信したのか、マリベルは私に向けて銃口を構えたがそこにもう私はいなかった。
「上っ……」
(でも…… 私は負けない)
私は武器を取り上げられた瞬間取りに行かず、その場で飛び上がった。
マリベルは予想できなかったのか、反応が遅れてサブマシンガンを私に放つがお兄ちゃんに教えてもらったパルクールなどを駆使して弾丸を避けて右足の蹴りをマリベルの首元目掛けて放った。
「ぐっ…… いったっ……」
体制を崩したマリベルに畳み掛けるように、右頬にパンチを当ててマリベルを数メートル吹っ飛ばした。
ただこのゲームの格闘によるダメージはそんなに多くないので、マリベルの体力を2割程度しか削ることはできなかった。
私は銃を拾って、リロードをした。
「すげぇよお前…… あいつに並ぶ異能ね、噂は本当らしいな」
「……」
「でもな、いまいちあたしの心に響かねぇ あいつもそうだなんつーか勝ちの最適化?? なんか機械的っていうのかな?? 勝ちたいっていうのは伝わるけど感情的な一撃には見えない まあいいさ。あいつもそうだ、それでこそ最強の称号はふさわしいんだろうが、もっと……」
「……え、あっ…… い、いや……」
「……おいおい、やっと口を開いたと思えばなんだ…… おい!! しっかりしろよ!!」
機械的、感情的その言葉を聞いた瞬間私の体に力が入らなくなった。
思い出したくない、あの時の記憶が頭に流れてくる。
父と母が交通事故で亡くなった日のこと。
おばあさんやおじいさんに捨てられた、あの時のこと。
幼稚園で仲間外れにされていた頃の記憶。
目を開けると、涙が止まらなかった。
私は思い出したくもない記憶に押しつぶされてしまった。
この後のことは何も覚えていないけれど、うっすら画面に見えたのはLOSEの文字で負けたことを知った。
私が取り乱してしまったことで、初めてスクリムで敗北した。
明日本番だっていうのに、ごめんなさい、ごめんなさい。
確かに今はみんながいる、そんなことはわかっている。
わかってはいるけど思い出してしまう。
私が涙を流しながらうずくまっていると、お兄ちゃんが部屋に入ってきて私を抱きしめてくれた。
※後書き
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