第84話 お前はもう1人じゃない

 俺は泣き崩れている彩音を抱きしめ、ティッシュで涙を拭いた。


「どうした、彩音」


「ぐずっ…… ぐすっ…… なんでもない、なんでもないの……」


「なんでもないことあるか、マリベル達になんか言われたんだな 今から俺があいつをボコボコにしてくるから彩音は待ってい……」


 俺は彩音がマリベルやその仲間たちに悪口や嫌がらせをされたんだと思い、頭に血が登って立ち上がった。


「ダメ…… あの人に悪気は無いと思うの、ただ私が過剰に反応しただけだから……」


「そ、そうか…… ごめんな、取り乱した……」


「でも…… 心配してくれてありがとう、お兄ちゃん 少しは楽になったよ」


 彩音は辛そうな顔をしながらも、俺に感謝の言葉を言った。


 状況を察するにおそらくマリベルかその仲間に、彩音の過去のトラウマを思い出させるような言葉を言われたのだろう。

 確かに生きてく上で、そのような言葉を聞かないで生活するなんて不可能だし、FPSゲームをやっていて尚且つ活動者の彩音はインターネットに触れる機会が一般の人よりも多く、余計に聞くことになるだろう。


 今は運営の人が管理していてアンチコメントや悪口を見えない環境にいるけれど、これからも活動を続けるのであればいつかは向き合わないといけないのかもしれない。


「……まあ、なんだ 明日は大会本番だから早めに寝ろよ 先にお風呂入るか??」


「うん、そうしようかな」


 彩音はそう言って、パジャマをクローゼットの中から取ってお風呂へ行った。


「……何をしてやるのが、正解なんだろうか……」


 俺は彩音の部屋を出て自分の部屋に行く途中で思わず独り言を言った。


 何かしてやらないと彩音が辛そうという気持ちと、彩音自身が乗り越えないといつまでも成長できないという気持ちが、俺の心の中に混在している。


 そんなことを考えていると、緋奈ちゃんたち3人から彩音が心配だというメッセージが届いた。

 彩音の部屋に行った時、スマホが充電されていたのでおそらく連絡を見ていないから俺に送ったんだろう。


(やっぱりみんな、心配なんだな……)


 彩音のことを心配してくれる仲間がいる、もう彩音は1人じゃない。

 俺はスマホを開いて、3人へメッセージを送った。


『みんな彩音のことを心配してくれてありがとう、彩音ならきっと乗り越えられるから大丈夫だよ』


 俺がメッセージを送ると、3人からそれでもできることはないかというメッセージが来た。


『強いていうなら、側にいてやってくれ それだけであいつは大丈夫だから』


 というメッセージを3人に送ると、階段から足音が聞こえた。

 俺はドアを開けると、パジャマを着た彩音がいた。


「最後に話があるから、部屋に来てもらってもいいか??」


「うん…… いいよ……」


 俺はそう言って彩音を部屋に呼んだ。

 相変わらず元気がなさそうな彩音と俺は、ベッドに並んで座った。


「なあ、彩音…… あまり言いたくはないんだが、もう終わりにしないか??」


「……え??」


「お前は俺の大切な妹だ、大切な家族だ、それに…… 大切な人だ……!! だから過去に囚われてないで今を見ろ、お前はもう1人じゃないだろ……!!」


 俺はそう言って彩音にスマホを見せた。

 俺のスマホの画面には緋奈ちゃんたちが、心配でたくさんメッセージを俺に送ってきた画面を見せた。


「……ごめんなさい、ぐすっ…… ごめんなさい、私、私……」


 彩音は俺の言葉を聞くと、泣き崩れた。

 でも少し前とは違う、どこか安心したようにも見える。


 俺はそんな彩音の頭を優しく撫でた。


「別に謝らなくていい…… 辛い過去はどうやっても変えることはできない、記憶から消えることはないだろう…… でも、いつか乗り越えなくちゃならない それに俺のライバルの最強プレイヤー『あ』はこんなの軽々と乗り越えられる、そうだろ?? 最強」


 俺がそういうと、彩音は涙を両手で拭った。


「うん!! ありがとう…… お兄ちゃん!!」


 彩音はそう言って、笑顔で笑った。

 心の中に抱えていたものがなくなって、いつもの彩音の表情になった。


「そっか、ならよかった…… んじゃあ、明日早いから早く寝ろよ」


 俺はそういい、用意していたパジャマを持って彩音と一緒に部屋を出て、階段の近くにある彩音の部屋の前まで行った。


「おやすみ、お兄ちゃん」


「ああ、おやすみ」


 俺がこのまま階段を降りようとすると、彩音が俺のパーカーの袖を掴んだ。


「どうした……??」


「寝る前に…… ハグして……」


 彩音はモジモジしながら、恥ずかしそうな表情で俺に言った。


「いいのか……?? 俺今からお風呂だけど……」


「うん、お兄ちゃんの匂い好きだから……」


「……ッ」


 彩音が顔を真っ赤にしながら言った。

 俺はそんな彩音を見て鼓動が早くなって、目を逸らしながら体制を低くして彩音とハグをした。


 お風呂上がりだからか、彩音からシャンプーのいい匂いがしてさらに鼓動が早くなったように感じる。

 

「こ、これで満足か……??」


「う、うん…… 満足だよ!! それじゃあ、おやすみ〜 明日はお互いに頑張ろうね」


「ああ…… おやすみ」




※後書き

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