第77話 楽しいお泊まり会

「いや〜それにしても気持ちよかった さすがは大企業の温泉、家の風呂とは次元が違うな」


 俺はスタッフの人と話をした後、男湯に向かった。

 貸切ということで他に客がおらず、話し相手がいないので、すぐに体を洗って出るつもりでいたがお風呂の他にもサウナに入って満喫し、結構長い時間入っていた。


 俺はスタッフの方が用意してくれていた黒い浴衣のようなものを着て、無料の自販機の前に立ってコーヒー牛乳のボタンを押した。

 数秒後、自販機からコーヒー牛乳が出てきて、俺は一気飲みをしてゴミ箱にビンを入れた。


(つーか、1本無料ってすごいな……)


 いい温泉にとてつもないサービス、よくこれで商売が成り立っているなとも思ったが、動画や配信サービスにおいて全世界トップシェアという文字だけで全て納得してしまう。

 俺はそんなことを考えながら歩いていると、タンタンという音が聞こえた。


 俺は音のする方に向かって歩くと、そこで彩音たち4人は浴衣で卓球をしていた。


「よし、有栖 私たち勝ったよ!!」


「なんか立ってるだけで勝った……」


「やっぱり、うーちゃんは強いよ〜」


「ぐぬぬ…… 緋奈、もっかいよ!! 彩音ちゃん、絶対勝つわよ」


 緋奈&有栖VS彩音&美佳のチームで卓球をしていたみたいだ。

 話的に緋奈がすごく上手いんだろう。


「にーちゃん!! どうだった?? うちの温泉は」

 

「ああ、すごくよかったよ」


「本当?? えへへ〜 パパがこだわって作ったって言ってたから、褒められると嬉しいよ」


 緋奈は俺が褒めると、ニコニコした顔で喜んだ。


「そうだ、お兄ちゃん うーちゃんと卓球勝負してみてよ、昔行った家族旅行で私と卓球した時にすごくうまかったし!!」


 彩音はそう言って、俺に卓球のラケットを渡した。


「そうなんですか??」


「期待……」


 美佳と有栖はそう言って、俺のことをじっと見つめた。

 ここは頼れるコーチであるこの俺の、かっこいいところを見せる絶好のチャンス。


「え?? まあいいけど、いいのか?? 俺が”本気”を出しても……」


「全然大丈夫〜 かかってこい!! そういえばにーちゃんって、中学校で部活は何してたの?? 私たちはお仕事あるからしてないけど〜」


「帰宅部だが俺は高校生、女子中学生なんかに負けた俺のメンツがたたねぇ…… いいぜ、勝負だ!!」


 俺はそう言って、卓球台の上に置かれていたボールを手に取った。

 こうして俺と緋奈による、卓球の試合が始まった。






 


「……えっと、これで10−0 にーちゃん、本当は卓球下手??」


「まだまだ…… 勝負はこれからだ……」


 流石に勝てると思っていたが、緋奈の運動神経がとてつもなくて普通にボコボコにされた。


(なんで緋奈ちゃん、現実世界でキャラコンしてんだよ……)


「おりゃああああああああ」


「おりゃっ」


 俺の渾身のサーブも普通に打ち返され、11−0で完敗した。


「う、嘘だろ…… ば、バカな……」


 俺は男子校高校生が女子中学生にイキって勝負し始めたのにも関わらず、完膚なきまでにやられたことに絶望し、ラケットを持ったまま倒れた。


「……にいちゃん、無理しなくてもいいんだよ??」


 いつもはいじってくる緋奈も、なんか申し訳なさそうな表情で言った。


「まあお兄ちゃん、そんなこともあるよ…… うーちゃん強いから仕方ない」


「ド、ドンマイです……」


「強く…… 生きて……」


 彩音たち3人も、俺を可哀想な人を見る目で見て慰めた。


「やめて!! その目で見るの、まるで俺が可哀想な人みたいじゃん……」


 俺がそういうと、4人は無言でうんうんと頷いた。


「ちくしょおおおおおおお もっかいだ、今度は負けねぇ……」



 


 結局俺は20−0で完敗して、罰ゲームということで緋奈をおんぶすることになった。


「にーちゃん、重くない??」


「ああ、全然重くないよ」


「ほんと〜?? んじゃあ、お姫様抱っこして貰おうかしら〜」


 緋奈がニヤニヤしながら言うと、彩音がジト目でこっちを見た。


「やらないから!! さすがに!!」


 俺が緋奈の要求を拒否すると、彩音は安心した表情でホッとした。


「なになに〜 あやねん、羨ましい〜??」


「ち、違うもん!!  別に羨ましくないし……」


 そんな会話をしながら廊下を歩いていると、スタッフ専用と書かれたドアがあった。

 背中に乗っていた緋奈はおりて、その部屋のドアを開けた。


「ここだよ!! さあさあ、みんな入って!!」


 高級な感じの大浴場だったので、内装も派手で眠れるか心配だったが部屋はシンプルで中学校とかでよくある、合宿の部屋のようなシンプルな内装に布団が敷かれていた。


「ふかふか〜」


緋奈は部屋に入った瞬間、サンダルを脱ぎ捨てて敷かれていた布団にダイブした。


 

「もう緋奈、サンダルは脱ぎっぱなしにしないできっちり揃えないと」


「はーい ごめんなさい」


 美佳に怒られた緋奈は、俺と彩音と有栖がいた入り口のところまで戻ってきっちりとサンダルを並べた。


「そういえば緋奈ちゃん、俺ってどこで寝ればいいんだ?? 一般の部屋を使ってもいいのか??」

 

「あ〜 にーちゃんもこの部屋だよ」


「え??」


「「「……え??」」」


 俺は一瞬、緋奈が何を言ってるのかわからなかった。

 彩音、有栖、美佳も同様に事前に聞いていなかったのか、頭の上にはてなが浮かんだ。


「あれれ〜 言ってなかったっけ??」


 緋奈は満面の笑みで、俺たちにそう告げた。




※後書き

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