第42話 今際の際

 午後の授業が終わったので、俺はstartubeの運営へ行く前にアポを取る事にした。

 

「もしもし、こちらはstartube日本拠点です」


 電話をかけると、女性の方と繋がった。


「はじめまして、わたくし加賀美悠也と申し上げます そちらで活動中の彩音さんの兄なのですが、あいうえクランの担当の方っていらっしゃいますか??」


「あ、彩音さんのお兄さんなのですね 少々お待ちください」


 (受付の人も一応、彩音のこと知ってるのか……)


 俺がそんなことを考えていると、電話の保留の音が途切れた。


「確認が取れました 本日は18時まででしたら大丈夫みたいです 明日以降は予定が詰まっていて もし来週になるのでしたら土日の内に予定をお知らせします」


「わかりました、では今からそちらに伺います」


「お待ちしております、では失礼します」


 こうして俺は、startubeの会社に行くことになった。


 


「ここか…… いや、でかすぎだろ……」


 学校から15分くらい歩くと、startube運営会社の日本事務所についた。

 隣に建っている10階のマンションよりも大きい15階建て、さすがの資金力だ。


 俺は正面入口から入って、受付窓口へ行った。


「先程電話させていただきました、彩音の兄の悠也です」


「お待ちしておりました、一応の確認として身分証などを確認してもよろしいでしょうか??」


 俺は学生証を取りだし、受付の女性に見せた。


「確認しました、では10階の応接室にご案内します」


 俺は女性の方に案内されて、応接室に向かった。

 応接室につくと、そこには誰もいなかった。


「社長は5分後に来ます、少々お待ちくださいませ」


「わかりました」


 女性の人は応接室を出て、俺1人となった。

 俺が社長さんが来るのを待っていると、ガチャっという音が鳴ってドアが空いた。


 俺が怒られる心構えをしていると、緋奈ちゃんが応接室に入ってきた。


「あ、にーちゃん!! 遊びに来てくれたの??」


「緋奈ちゃん?? なんでここに??」


「なんでって、下のスタジオでお歌の動画撮り終わったから来た!! なんかにーちゃんがうちの事務所に遊びに来たって聞いたからさ〜」


「そうか…… いや、遊びに来たわけではないけど……」


 正直、あいうえの4人には会いたくなかった。

 俺の責任で面倒事に巻き込まれてしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


「にーちゃん、元気ない?? どーしたの??」


「いや、なんでもない…… 疲れてるだけ……」


 多分緋奈ちゃんも運営から知らされていないのだろう、まあ知らないならそれはそれで良いと思った。

 正直、中学生の彼女らがネットの悪口とかで病む姿は見たくない。


 俺がため息を着くと、緋奈ちゃんが俺の膝の上に座った。


「あ、あの……」


「んじゃあ、にーちゃん!! 私と遊ぼうよ〜  元気でるよ!!」


 緋奈ちゃんは元気の無い俺を見たからか、励ましてくれた。

 元気な緋奈ちゃんを見て、気分が少し落ちついた。


「ありがと、なんか少し楽になった気がする」


「えへへ〜 にーちゃん、単純〜」


「そうかもな……」


 俺たちが話していると、ガチャとドアが空いた。

 

 緋奈ちゃんがいきなり入ってきたので、おそらくメンバーの誰かかなと思って緋奈ちゃんと話していると、サングラスを付けていてスーツを着ている黒髪オールバックの大男が入ってきた。


「あ、パパ〜」


 緋奈ちゃんは俺の膝の上に座ったまま、大男に手を振った。


「……パパ??」


 俺は男性を見て、顔が真っ青になった。

 これから謝罪をしようと思っていたのにも関わらず、娘さんを膝の上に乗せているので、俺は頭が真っ白になった。


「君が彩音ちゃんのお兄さんの悠也君か??」


「は、はい……」


「娘はどうだ……?? 可愛いか……??」


「はい…… とても魅力的な女性だと思います……」


 圧迫面接のような感じで返事をすると、緋奈ちゃんのお父さんは俺の横に来てスマホを見せた。


 おそらく、今回の炎上で失った株のグラフとかだと思いながら恐る恐る見ると、そこには赤ちゃんの写真が写っていた。


「これは0歳の時の緋奈だ」


「……」


 お父さんはスマホの画面をスライドさせて、次の写真を見せた。


 次の写真は753の写真が1枚にまとまっていた。


「これが753」


「……」


 もう一度お父さんがスマホ画面をスライドさせると、次の写真は中学校の入学式の写真で彩音や美佳ちゃん、有栖ちゃんと緋奈ちゃんの4人で写っていた。


「これは中学校の入学式、それで次が……」


「ちょっと、パパ!! 恥ずかしいから、にーちゃんに昔の写真を見せないで!!」


 俺が反応に困っていると、緋奈ちゃんが立ち上がってお父さんを注意した。


「いや、わたしは緋奈の魅力を悠也君に……」


「そんなことしなくても、にーちゃんは私にメロメロだよ!! 大丈夫だから!!」


「えっ……」


 (いや、この状況はまずい……)


「……ほ、ほんとうかい 悠也君」


「え…… は、はい!!緋奈ちゃんは本当にいい子で、仲のいい友達だと俺は思っています!!」


 俺がそう言うと、お父さんは涙を流してポケットからハンカチを取り出してサングラスを外して目元を拭いた。


「正直心配だったんだ、娘が年上の男の子と遊ぶなどと…… でも、悠也君は優しい人で安心したよ……」


「そ、そうですか…… そう言ってもらえて嬉しいです」


 緋奈ちゃんのお父さんは、安心したような表情をしてソファーに座った。


 

 




※後書き

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