第27話 新たな挑戦者

 大会が終わって1週間後の金曜日、いつも通り学校から帰ってゲームをしているとピンポーンとインターホンの音がなった。

 隣の部屋から足音がしておそらく彩音が玄関に行ったと思い、無視して俺はゲームを続けていた。


「よし…… 勝った……」


 俺は相変わらずランキング戦をしていた。

 今回のシーズンのランキングはやる気があまりなく、現在は121位。

 武器の色違いスキンは300位以内でもらえるので、このまま維持すれば問題なくもらえるだろう。


「つかスクリムのメンバーどうしよかな……」


 来週から夏に開催される『APAC NORTH Champions League』の練習大会、通称『スクリム』が始まる。

 月一開催で今月は来週の27日土曜日、6月は未定だが1回と7月の月末にある本大会の1週間前にある。


 メンバーは大会前日に決定させるまで、リーダー以外は入れ替えることができるので正直誰でもいい。

 適当にランキングの高い俺のフォロワーを3人集めて、勝てたらそいつらと世界大会予選に出るつもりだ。


 俺がSNSでスクリムメンバー募集をかけようと打ち込んでいると、俺の部屋のドアが開いた。


「え〜 にいちゃんの部屋、汚くはないけど散らかってるね〜」


「彩音ちゃんとは大違いですね……」


「こんにちは…… お兄さん……」


 緋奈ちゃん、美佳ちゃん、有栖ちゃんの3人が俺の部屋に入ってきた。


「ちょ…… 勝手に入んな」


 俺はヘッドホンを外し、入るのを阻止しようとしたが、俺の腕の下を通って3人は部屋に入り、緋奈ちゃんがマウスで俺のゲームを操作して戦績画面を開いた。


「え?? にいちゃんの平均キルすご!! 最強じゃん!!」


「2本先取の4対4ルールの平均キル7.5…… ほとんど1人で殲滅してるじゃないですか……」


「さすがアジアのタイマン最強……」


 3人は俺の戦績を見て驚いていた。

 実際、ソロでアジアランキング2位になるには野良の味方を頼らずに1人で勝たなきゃポイントを盛ることができないので、これくらいしないといけない。

 俺はドヤ顔で3人の方を見た。


「その顔はなんですか……」


「すごいけど…… なんか、うざい……」


「にいちゃん、友達いないと大変なんだね……」


 3人にもっと褒められると思ったが、痛いとこを突かれ心が痛くなった。


「うっ……」


 元推しのグループメンバーに罵倒というのは、ある意味ご褒美かもしれないが、俺はマゾではないので普通に悲しい気持ちになった。


「もう……みんな、勝手にお兄ちゃんの部屋に入らないでよ〜」


 俺が苦しんでいると、俺の部屋の前に1リットルサイズの飲み物とコップを持った彩音が立っていた。


「はいはいみんな〜 私の部屋に行って〜」


 彩音は3人を俺の部屋から誘導し、自分の部屋に連れていった。












「まあ…… でもやっぱり人は集めた方がいいよな……」



 実際、彼女のいうことは的を得ている。

 寄せ集めのチームで勝てるわけがない、そんなのはよくわかっている。

 だが、人脈が極限までない俺にそのハードルを超えるくらいなら自分1人で圧勝する方が早いとさえ思う。


「プロの配信見るけど、俺や彩音のが対面は強いし 予選は抜けるだろ」


 俺が1人で参加メンバーを考えていると、誰かが俺の部屋のドアをノックした。


 俺がドアを開けると、そこには彩音が立っていた。


「運営さんが買ってくれたケーキをこれから食べるんだけど、お兄ちゃんも食べない??」


「いや…… 俺はいい…… みんなで楽しんで食べた方がいいだろうし……」


 俺がそう言って部屋のドアを閉めて、再びゲームをしようとすると彩音がドアを開けて俺の手を取った。


「みんなで食べようよ〜」


「いや、俺はお前の兄だ 妹の友達のところに行って話の輪を乱すことになるかもしれないだろ」


「んじゃあ、罰ゲームをここで使うね!! みんなでご馳走を食べよう!!」


 彩音は強引に俺の手を引っ張り、自分の部屋につれていった。

 ジャージ姿の俺が彩音の部屋の前につき、彩音がドアを開けた瞬間パンっとクラッカーの音が鳴り、紙製のテープが発射され、火薬の匂いとともに俺と彩音の頭の上に乗っかった。


「「「祝!! 2人とも、プロリーグ出場おめでとうございます!!」」」


 彩音の部屋に行った3人は、俺と彩音にそう告げた。

 隣にいる彩音の方を見ると、彩音は涙を流していて嬉しそうだった。

 初めて面と向かった人に祝われ、俺は嬉しくて涙が少し流れた。

 

「ぐすっ…… なんでお兄ちゃんも泣いてるのよ……」


「……いや、泣いてねぇよ」


 俺は涙を袖で拭き、泣いていないと嘘をついた。


「にいちゃんの泣き虫〜」


 緋奈ちゃんはそう言ってハンカチをポケットから取り出し、背伸びをして俺の目の周りを拭いた。


「な、泣いてねぇからな!! それに、俺は君たちをプロリーグの舞台で絶対に倒す!! 覚悟しとけよ!!」


 俺が3人に宣戦布告をすると、美佳ちゃんがショートケーキを俺の口に入れた。


「これは、緋奈の提案です 別に感謝とかいらないですからね!!」


「うっ……うぐ……」


 美佳ちゃんは照れた顔をしながらそう言った。

 俺はショートケーキが喉に詰まり、苦しくなった。


「ど、どうぞ……」


 有栖ちゃんは俺にオレンジジュースを渡してくれた。

 俺は勢いよく飲み、ショートケーキを流し込んだ。


「だ、大丈夫?? お兄ちゃん……」


「問題ない…… それよりみんな、ありがとうな……」


 俺が感謝の言葉を伝えると、3人は照れ臭そうに目を逸らした。


「よし、みんなもケーキを食べよ!!」


 彩音はそう言って、ケーキを取り分けみんなに配った。

 


 


 




※後書き

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