第24話 彼女は推しであり、妹である

「はぁ……っ はぁ…… 絶対に倒したと思ってた…… これを耐えるのかよ……」


「はぁ……っ はぁ…… やっぱりお兄ちゃんはすごい……」


 空中遺跡の大広間、光が少し入る神殿の中での戦いも残り時間2分ほど、決着がつかない場合は体力の多い方が勝者となる。

 全く同じ場合は引き分けになる。


 俺は彩音にトドメを刺すために、サブマシンガンをリロードしようとした。

 カス、カスっという弾薬切れを知らせる音が出て、俺はため息をついた。


(残り弾薬0か…… グレネードもないし、どうするか……)


 彩音の方を見ると、彩音も弾薬切れでリロードができていなかった。


「なあ、彩音 体力なんぼ??」


「12 お兄ちゃんは??」


 体力ゲージを確認すると、12で彩音と全く一緒の値だった。


「12 このまま何もしなかったら引き分けになるけど……」


 彩音にこのままだと引き分けになるということを伝えると、彩音は俺がさっき投擲したサバイバルナイフを拾って優しく俺の方に投げ、俺はそのナイフをキャッチした。

 


「やるっしょ…… 私はお兄ちゃんに勝ちたいよ!!」


 彩音は目を光らせながらそう言って、サバイバルナイフを腰の入れ物から取り出して先端を俺の方に向けた。

 血は繋がっていないが、俺のようなことを彩音が言った。


(サバイバルナイフは胴体ダメージ25、当たった瞬間にどちらかが死ぬ…… いいぜ……乗ってやるよ……)

 


「彩音…… 最高だ……!!」


「行くよ…… お兄ちゃん!!」


 残り2分、画面左上に警告文が出た瞬間俺はナイフを持って彩音に接近した。


「はあああああああああ」


 俺は彩音の心臓目掛けて、ナイフを振った。

 身長の差があるので、彩音は少し体制を低くして俺のナイフを避けて、即座に反撃に転じた。

 俺は彩音が心臓目掛けて突いてきたナイフを自分のナイフで受け止め、カードして距離をとった。



「どこ当てても同じだろ、どうして心臓を狙う……??」


「えへへ〜 だって、適当なとこ刺して勝つのはなんか嫌でさ」


「それは俺も同意見だ……」


「あはは〜 そうだよね!! お兄ちゃん!!」


 彩音はそう言って、俺との距離を詰めた。

 今まで配信で数々のランキングに名前を残す人達との戦いでは無表情で戦っていた推しの顔とはまるで違う、このゲームを楽しんでいるように見えた。


 彩音は連続で俺の心臓目掛けてナイフで突きを繰り出した。

 俺は彩音のナイフを持つ右手を蹴った。

 


「きゃっ……」


 彩音は俺の蹴りで体力は減らなかったが、持っていたナイフから手が離れ、少し離れた地面にナイフが落ちた。


「俺の勝ちだ……」


 俺は勝ちを確信し、ナイフを彩音の心臓目掛け突きをした。


「まだだよ…… まだ、私は負けたくない!!」


 彩音は俺の足を蹴った、体制を崩し俺はナイフを地面に落とした。


「くっ……」


 俺は即座にナイフ拾おうとした瞬間、彩音は俺の体に抱きついた。

 俺は屈んでいた状態から体制を崩し、彩音と共にゴロゴロと地面を転がった。

 倒れた状態から体を起こそうとしたが、俺の上に彩音が馬乗りの姿勢で俺の体の上にいて、両手にさっき俺が落としたナイフを持っていた。

 


「俺のナイフを拾ったか…… つかよくこんな判断できるな…… すげぇよ……」


 残り時間は10秒、反撃しようにも完全に動けない。

 俺は完全に打つ手がなくなって、マウスから手を離した。


「お兄ちゃん、今回は私の勝ち!! 罰ゲームだからね!!」


「ああ…… わかったよ……」


 彩音は俺のアバターの心臓部分をナイフで突き刺した。

 YOULOSE、敗北の文字が俺の画面に表示された。

 試合が終わった瞬間、不思議と涙が出てきた。


「負けたのか…… まあ、なんだろ…… 悔しいけどさ、彩音が楽しそうにゲームしてて…… さっ……」


 俺は彩音に負けたことは、心の底から悔しい。

 アジア個人最強と言われていたが、彩音に負けたことで俺はその称号を失っただろう。

 

 でも、そんなことよりも妹が楽しそうにゲームをしているの見れて良かった。


 このゲームのランキングをしてた時の彩音はメンバーとの会話以外では静かに無表情で、まるで機械のようだった。

 そんな彩音が俺との戦いで笑顔で心の底からゲームを楽しんでいるのを見て、兄としては嬉しかった。


「……って、シスコンだよな…… でも推しであり、妹だから嬉しいんだ……」


 俺は泣きながら、独り言を言った。

 涙を拭いて配信を見ると、彩音のインタビューが始まっていた。



 


「今回優勝おめでとう!! 試合はギリギリでどっちが勝つかわからない白熱した試合だったがどうだった?? 感想を教えてくれ!!」


「えっと…… 優勝できて嬉しいです!! ファンの皆さんや応援してくれたみなさん、ありがとうございます!!」


 彩音の一言で、配信のコメント欄は盛り上がり沢山のおめでとうコメントで埋め尽くされたので、俺は配信の画面に流れるコメントを非表示にした。


「つーか…… あちゃんが、あんなに楽しそうに試合をするなんてな…… 解説席やコメント欄では大盛り上がりだったが、やっぱり個人技最強のYUUとの試合は楽しかったか??」


「楽しかったです!! また勝負したいです!!」


「そうか…… ありがとう…… 最後に質問だが、今回の1位と2位の2人には世界大会予選のアジアプロリーグのリーダー権を与えるが、世界大会は出ますか??」


「はい!!  みんなが同意してくれたら行きます!!」


「まじか!! あいうえ初参加か!! これは今回のアジアリーグは波乱になりそうだな!! 時間もおしてるから今回はここまで、以上優勝者インタビューでした!! 」


「応援ありがとうございました〜!!」


 彩音のインタビューが終わったので、俺は配信を閉じた。

 


 

 

※後書き

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