第22話 お兄ちゃんのへんたい……

「よし…… 始まったな」


 俺は空中神殿の近くにある噴水エリアにスポーンした。


「つかさっき気づいたけど、大会の試合中の音声配信の方に入ってないから本名読んでも大丈夫で良かったんだな …… 試合中ボロでそうだったから助かるなあれ」


 さっきの有栖との試合中、適当に誤魔化したのを確認しに配信を見たら音声が入っていなかった。

 運営の配慮なのか、まあ何にせよ嬉しい。


「さて…… 彩音は……って、やば……」


 俺は微細な風を切る音が聞こえ、噴水の裏に体を隠して体制を低くした。


「あ、えっと…… YUUさん??こんにちは〜!!」


 サブマシンガンを持ってヘルメットを被った軽装備の彩音が目の前に現れた。


 俺はここまで接近されるとは思わなかったので、スモークグレネードを地面に投げ距離を取った。

 


「これ配信に音が入らんみたいだから本名でいいよ、彩音!!」


「そうなの?? んじゃあ お兄ちゃん、倒すね!!」


 彩音はスモークで隠れて走っている俺目掛けてサブマシンガンを放った。


「は??」


 放たれた弾丸が1発当たった。

 俺は走る方向を変え、神殿の方目掛けて走った。


 (多分あのまま同じ方向走ってたらやられてた…… おそらく適当に放って当たったらダメージ音を聞いて位置を当てる ここは距離を取ろう……)


 このゲームはキャラメイクで性能がわかれる。

 俺はバランス型の青年キャラ、体力やHPスタミナも平均値でいわゆるオールラウンダー。

 対する彩音は小柄、小柄は小回りが効く代わりにHPとスタミナが少なめ。

 どこに彩音がスポーンしたかわからないが、少なくとも開幕潰しで沢山スタミナを消費している、俺が強いポジションまで移動するのを追うのは不可能だろう。


「どんくらいスタミナ残ってるかわからんが、あのまま戦うのは返り討ちにあってた…… 我ながらいい判断だと思う」


 俺は少し走り、神殿に着いた。

 そして、神殿の入口と裏口に透明なレーザーの検知装置を設置した。


「足跡でどーせバレてるだろうし、あえてステージギミックは起動しないでおくか……」


 この神殿には侵入者を迎撃する、レーザーがある。

 ダメージはそんなに痛くないが追尾してくるため、いわゆるウザイ装置で無いよりマシみたいな感じだ。


「とりあえず、この階段上のポジションまで行くか」


 俺はこの神殿内の柱の裏に体を隠して彩音を待つことにした。


(つか彩音、今回はヘルメット買ってるのか…… 俺や美佳ちゃんと戦う時だけしか買ってなかったし、これもしかして俺を強いって思ってるかもじゃん 嬉しいな〜)


 俺が脳内で自意識過剰の妄想をしていると、神殿の入口に置いておいたセンサーが反応した。


 センサーが反応した瞬間、俺は柱の裏から彩音に向かってサブマシンガンを撃ち込んだ。


「こっちだろ!!」


 彩音がステージギミックのレーザーと俺の弾丸を避けると予想し、俺は奥の柱にエイムを合わせ弾丸を放った。


 放たれた弾丸は彩音のへその部分に当たり、防弾チョッキの一部が砕け、リアルの彩音に似たアバターのへその部分が見えた。


「なっ……」


「きゃあっ…… お、お兄ちゃんのえっち……」


 彩音が恥ずかしそうに言ったので、俺は思わず目を隠して後ろを向いた。


「す、すまん…… って違うだろ!! 俺は心臓目掛けて撃ったんだって!!」


 俺は後ろを向いたまま、手をTの形にした。


「タイム!! 真剣勝負だ、一旦仕切り直し!!」


「ご、ごめん!! キャラメイクの時リアルに近い感じで作ったから思わず…… ちょっとまってて、いいよ」


彩音がいいと言ったので俺が正面を見ると、防弾チョッキの内側の黒いインナーを伸ばして見えないように隠していた。


「よ、よし…… んじゃあ俺はあっちの柱、彩音はそっちの柱からスタートで」


「う、うん!!」


 なんというか本当にランキング1位と2位が戦っているのかわからなくなってきた。

 配信はこの状況に音声が入ってないので、更にシュールというかなんとも言えない感じなんだろう。

 いやむしろ、彩音のおへそが全世界初公開ということでむしろ盛り上がっている感じがして複雑な気持ちだ。

 


 俺は柱の裏についてサブマシンガンをリロードした。


「いいか??」


「うん!!いいよ〜」


 彩音が準備できたことを確認できたので 、俺は柱の裏から体を出し彩音のいる柱をスコープで覗いた。


「そういや、彩音はこの距離でも…… 」


 スコープの倍率を変えている途中、彩音のいる場所から無数の弾丸が飛んできた。

 俺は咄嗟に、柱の裏に身を隠した。

ダメージは受けなかったが、この距離でも倍率変えなくても正確に弾を当てれるという情報だけで恐ろしいものだ。


「おま、サブマシンガンだぞ!! なんでアサルトライフルみたいなこと出来んだよ 得意とかのレベルじゃないだろ、おかしいだろ!!」


「え〜 お兄ちゃんもしかして出来ないの??」


「……あのな、サブマシンガンはこうやって使うんだよ」


 俺はそう言ってスタングレネードを彩音目掛けて投げた。

 彩音はグレネードが放たれた瞬間、後ろを向き距離を取った。

 俺はパルクールの動作をして、彩音との距離を詰め彩音の背中目掛けて発砲した。


「どうだ!!」


 彩音は俺の放った弾丸をスライディングで回避し、石像の裏に身を隠した。


「危なかったよ〜 さすがお兄ちゃん」


「いやこれ避けるのかよ!! さすがはアジア1位だな……」


 俺は飛び乗った柱から降り、彩音の隠れている場所目掛けて飛び込んだ。


「なっ…… いない……」


 俺が柱の裏に飛び込んだ瞬間、彩音は壁を蹴って飛び上がり、俺の脇腹目掛けて蹴りを放った。


「有栖ちゃんとの試合を見て理解したの、お兄ちゃんの動きってこうやるんでしょ??」


「理解すんの早すぎだろ…… この天才が……」


 俺の体は吹っ飛ばされ、龍神の石像に直撃し体力が半分くらい消滅した。


 



※後書き

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