第16話 優しくしてね……

 俺と緋奈ちゃんは落下して1つ下の階に落ちた。

 このゲームは落下ダメージが存在しないが、着地後の硬直は存在する。

 

 俺は落下硬直を武器を捨てる動作を空中でする小技を使うことでなくし、宇佐見の持っているハンドガンを2本とも奪ってビルの窓から捨てた。


「あ〜 返せ!!」


「硬直で動けない気分はどうですか?? あなたは最強のあいうえクランなんですよね〜」


 俺はお得意のFPSゲーム煽りをした。

 緋奈ちゃんがそれを聞いて、ぐぬぬという感じの表情をした。


「……なんか、ごめん……」


 確かに最強格のプレイヤーに頭脳勝ちして煽るのは俺のような一部のマナーの悪いプレイヤーなら普通のことだが、仮にも中学1年生の幼い女の子にするのはどうかと思い、咄嗟に誤ってしまった。

 

「にーちゃんの、あほ!! 彼女なし!! インキャ!!」


「ごめんって謝ったじゃん!!」


 俺はそう言って、ナイフを腰ポケットから取り出した。


「さて…… やるか……」


 このゲームの体力的にナイフで倒すには、5回刺すか心臓を狙って当てるしかない。

 俺は硬直で動けない宇佐見のアバターの上に乗って、ナイフを構えた。


「俺も年下の女の子を倒したくない…… 降参してくれると助かるんだけど……」


 俺がそういうと、宇佐見は着ていた防弾チョッキを脱いだ。


「あ〜 降参って感じか」


 俺が降参宣言だと思い、気が緩んだ。


「いや…… にいちゃん…… その…… 初めてだから…… 乱暴にしないで……」


 緋奈ちゃんは顔が赤くなって、照れたような表情に変わった。


「優しくしてね……??」


「ちょっ……」

 

 中学1年生の女の子とは思えない表情で宇佐見は言った。

 俺は顔を赤くして、宇佐見に向けていたナイフをしまって離れようとした。


「待ってよ…… にいちゃんもそういうのに興味あるんでしょ??」


 緋奈ちゃんは硬直で倒れた姿勢から、俺の腕を掴んだ。

 俺は体勢を崩してその場に倒れた。

 


「顔が赤いよ?? にいちゃん、ほんとはそういうことしたいんだ……」


「ち、ちがう ゆ、誘惑すんな!!」


「このスケベ…… 目を閉じてよ、にいちゃん……」


 緋奈ちゃんは耳元で囁き、俺のアバターの胸の部分に手を当てた。

 俺は何故かマウスを握る手に力が入らず、操作ができなかった。

 仮にも中学1年生の女の子だ、ゲームの世界だからとはいえ手を出すのは俺が社会的に死ぬ。

 だが彼女の誘惑にかかったのか、俺は現実世界でも目を瞑ってしまった。


(……お父さん、お母さん、彩音…… ごめんなさい…… 次に会うのは警察署です……)

 

 俺が心中で懺悔していると、ガチャンという音がした。

 俺はその音が聞こえた瞬間、嫌な予感が頭をよぎり目を開けた。


「スケベな に〜ちゃん♡ じゃ〜ね!!」


 俺が目を開けると、俺のアバターの装備が外れていてシャツの状態になっていた。

 そして緋奈ちゃんが俺の持っていたナイフを持って、俺のアバターの上に乗っている。


(硬直の時間稼ぎの演技に、そして俺の目を瞑らせて装備を外して一撃で倒せるようにするか……)


「くっ…… このガキ……」


「えへへ〜 にいちゃんのえっち〜 こんな誘惑引っかかるなんて、にいちゃんの変態〜」


「……」


 俺はSNSでたまに見る、メス◯キにわからされるお兄さんの気持ちが、わかった気がした。

 緋奈ちゃんのナイフが俺の体に突き刺さった。


 YOU LOSE、敗北の文字が俺の画面に表示された。

 俺は力が、抜けた感じがして現実世界で座っていた椅子から滑り落ちた。


「えっへ〜ん、どうだった?? にいちゃん、私の方が強いでしょ!!」


「卑怯だろ…… 今のは……」


「いや〜 これも作戦の内ってやつだよ??」


「ぐぬぬぬぬ」


 俺は奥歯を噛み締め、負けたことに納得がいかなかった。

 確かに作戦と言われたらそうだが、こんなのはFPSゲームの戦い方としては納得したくない。


「まあでも、にいちゃんも強かったよ〜」


 お世辞なのか、本心なのかわからないが宇佐見は俺のことを褒めてくれた。


「まあ、俺が年下の女の子に本気を出すわけないだろ 知っている人だから作戦に乗ってやっただけだからな!! 二度目はないぞ!!」


 俺は心の中で情けなくてダサいと思いながらも、緋奈ちゃんにそう伝えた。


「ま〜 そうだよね〜 にいちゃんタイマン最強だしね〜」


「あ、ああ…… そうだよ、俺は最強なんだよ!!」


 なんか気を使ってもらった感じがするが、情けない感じで負けたというのを緋奈ちゃんの印象から除けるように俺はいつもネットでする強気で言った。


 そんな感じで試合後に話をしていると、宇佐見のマイクからご飯ができたよ〜と母親か誰かの声が入った。


「もうこんな時間か…… まあいいや、んじゃ今日はこの辺で失礼する」


「うん!! にいちゃんと遊べて楽しかったよ〜」


「そっか……」


 俺がそう言ってマイクを切り、電源を消そうとする瞬間フレンド依頼がきた。


「また私と遊んでよ〜」


「ああ、いいよ 今度は正々堂々勝負な」


「でも…… にいちゃんってスケベだから、私に乱暴を……」


「しねえよ!! 早く飯食ってこい!!」


 俺がそういうと、緋奈ちゃんはゲームのと通話アプリの電源を消した。


「ふ〜 疲れた〜」


 俺も2つの電源を消してヘッドホンを外して、机の上に置いた。


「マジでやらかした…… しっかりしろ俺……」


 ネットで最強と言われる俺が、まさかこんな情けない負け方をするとは俺自身思わなかった。


「まあそれでも、大会前の練習にはなったし、あとは本番油断しないようにしよう……」


 俺は1人で反省し、大会の練習のためランキング戦にソロで潜った。

 

 

 

 


 

※後書き

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