第9話 本当の強さは優しさなのかもしれない

 俺の声は教室中に響いた。

 久しぶりに大きな声を出したので、声が少しかれてしまった。

 ゲホゲホと咳き込んだので、水を飲んで喉を潤した。



「急にうるさいよ!! にいちゃん〜」



「いや、半分以上は、君のせいだが??」


 俺が真面目な顔でいうと、有栖ちゃんはゲームをやる手を止めて彩音に頭を下げた。


「冗談……だよ??あやねちゃん……」


 彩音は有栖ちゃんの謝る顔をみて、ホッとした表情を浮かべた。


「なんだ、ならよかったよ〜 全く、うーちゃんは嘘つくのやめてよ〜 」


 彩音は緋奈ちゃんに注意をした。


「ついつい悪ノリで〜 ごめん!!」


 緋奈ちゃんはてへって顔をして彩音を見た。

 彩音は呆れた顔をして、緋奈ちゃんの頭を撫でた。


 ふと彩音の顔をみて思った、そういえば彩音が1位になってからリアルで何も祝ってないことを思い出した。

 祝わなきゃと思い、俺は彩音の近くに行った。


「あのさ、彩音…… 1位、おめでと お前が1番強い……」


 俺は自分の悔しさを押し殺して、彩音の1位を祝った。


「ありがと〜 でもこの1位はみんなで掴んだから私だけの物じゃないよ!!」


(やっぱり彩音はすげぇよ……)


 正直思った通りの返事だった。


 俺にはみんなで掴んだというのがわからない、実際に最初から最後まで固定を組んでランク戦をしているので、貢献ポイントの少しの差があり、他のみんなも1桁台だが彩音だけは少しの差で最強の称号を掴んだのだ。


 俺は最強の称号を手にしたら、絶対に自分が最強だと思い、調子に乗るだろう。

 だか、彩音はみんなの力がなければここまでいけなかったと言い、決して仲間やライバルを下に見ない。


 そういう所が人気なんだろうと再び思った。


 俺は彩音の言葉を聞いて、涙目になって笑った。


「そうだよな…… まあ、おめでと」


 俺はそう言って、体育祭の会場に向かった。




 


「あやねん〜 何でにいちゃん泣き目になってたの??」


 緋奈は悠也の後を追おうとした。

 教室を出る直前に、美佳が手を掴んだ。


「あんたってデリカシーないよね……」


「なんだと〜 美佳、にいちゃんがなんか泣き目になってるから慰めてあげなきゃ!!」


「そうだよ、お兄ちゃんなんか変だよ……」


 彩音も緋奈の意見に賛成した。

 2人を見て、美佳は呆れた顔をした。


「全くもう…… お兄さんは自分1人で頂点になると考えてたと思う、でも自分の妹にその称号は取られた。 海外の人間に目をつけられて別の目標ができたと思うけど、結果的に敗北はしてるんだよ」


「……負けたことを認めてた、でも悔しい気持ちを押し殺していたと思う……」


 美佳に続いて有栖も、悠也のことを2人に話した。

 彩音と緋奈は、申し訳なさそうに表情が暗くなって下を向いた。


「別に私たちが謝ることじゃないわ、お兄さんが私たちを上回る強さがあれば掴んでいた。 だから彩音が言うべきことは、『ドンマイ』じゃなくて『がんばったね』だと私はそう思う」


「考えもなしにみんなで一斉に行っくと、かえって煽りというか、そんな捉え方にもなるかもしれないし……」


 美佳は冷静な判断で、悠也の心境を見抜いた。


「……私たち3人はまだあったばかりで、お兄さんのことをよく知らない…… だからここはあやねちゃん1人で、慰めるのがベスト……」


 有栖は彩音の背中を押した。


「わかった!! 今日お兄ちゃんが帰ってきたら慰めてみるね!!」


 彩音は2人の言葉を聞いて、慰めることにした。


「あやねん、ちょっと耳貸して〜」


「うーちゃん、何〜」


 緋奈はにやにやしながら、彩音に何かを伝えた。


(絶対また何かやりそう)

 

(何か企んでる……)


 美佳と有栖は嫌な予感がしたが、彩音が緋奈の話を聞いて やる気を出したように見えたので多分大丈夫だろうと思って聞かないことにした。







 


「疲れた……」


 あの後、俺は体育祭の競技を何個かやらされた。

 ゲームしかやってない俺にとって、屋外競技はしんどいものがあった。

 それにランキング戦をしたのちだったので疲労がすごくて今にも倒れそうだ。



「おかえり、お兄ちゃん!!」


 俺がドアを開けると、彩音が玄関にいた。


「ああ、ただいま……」


 俺は情けないところを見せてしまった恥ずかしさで、彩音の持っていたタオルを受け取らずに部屋に真っ先に行った。

 部屋につき、俺はゲーミングチェアに座りながら頭を抱えた。


(あんなとこ見せちまって、兄として情けねぇ…… 恥ずかしいし何やってんだろ……)


 俺が頭の中で考え、ため息をつくと部屋のドアが突然開いた。


「なっ」


 部屋のドアを開けたのは、彩音だった。


「お兄ちゃん!! ちょっとお話があるの!!」


「話?? そんなのないよ…… どっかに行ってくれ……」


 俺は疲れていて判断が鈍り、自分の悔しさの方を優先してしまい、彩音に冷たいことを言ってしまった。


(まずい…… 何言ってんだ…… そうじゃねぇだろ……)


 俺の言葉を聞いて、彩音が泣きそうになってしまった。


(だめだ…… ほんとに……)


 俺が再び頭を抱えていると、彩音は泣き目になりながら近づいてきた。

 さすがに言いすぎたと思い、俺はなぐられる覚悟をして身を構えた。

 だが、彩音は俺の座っているところの前に来ると、まるで赤子をあやすように、頭を撫でて胸の近くで抱き締めた。


「え??」


 俺が困惑し、恥ずかしくなって離れようとしたが彩音はその手を離さなかった。


「すごいよ、お兄ちゃんは…… 私にいつも新しい世界を見せてくれる」


「どうしてこんなに俺に優しくするんだよ…… 俺たちは長いこと顔すら合わせてなかっただろ……」


「ちょっと、昔のお話をしようよ……」








※後書き

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