第6話 人生の分岐点

 ランクリセット最終日、俺は相変わらずランクリーグをしていた。

 日をまたいだ瞬間、俺の2ヶ月の努力の成果が発表される。


 特にTOP3は拮抗していて、2度の連敗で順位が入れ替わっでもおかしくはないくらいのポイント差、一瞬でも気が抜けない。


「11時45分、彩音との差は200だし 撃破数を重ねて勝てば埋まる…… だが、3位との差も550か 2連敗したら埋まるなこれ……」



 そんな独り言を言いながら必死にやっていた。

 3位のレインと彩音はどちらも配信中で6時からお風呂休憩のみ、数時間が経過していた。



 その後になんやかんや8連勝し、手が痛くなってきたので一旦手を止めてランキングサイトを確認した。



「よし、 1位!!」


 3位との差は1100ポイント、1試合の最大は500なので試合時間を考慮しても不可能。


 彩音との差は20ポイント、もし今試合中で勝った場合最低でも100ポイント入るのでひっくり返ってしまう。


「5分で1試合…… だが、この試合負けたら100ポイント失う……」


(どうする??)



(圧倒的な勝率を誇る彩音が負けるとは思わない。)


(ここで1ゲーム行って俺が勝てば確実にアジア1位、負けたら100ポイントを失い2位……)


 試合は急ぐ動きをすれば4分ほどで終わる、だが負けるリスクが大きくソロだとおすすめできない。


「……よし 」


 俺はこの試合に勝つ自信がなかった。

 何故なら負けた瞬間に全てが終わる、リセット直前で相手も急ぐ動きで来る可能性が高いので下手なことをしない方がいいと思った。


「彩音の配信見るか~」


 念の為、彩音の配信を開いた。

 配信サイトで読み込みが終わった後、パソコンの画面に対戦中の画面が表示された。


「……っく、やっぱりそうだよな……」


 俺は急いで配信の画面をゲーム画面に切り替えた。

 

 甘かった。

 頂点に居座るものは自分との圧倒的な差が埋まるまでは、その手を止めることは決して許されない。


(だけど差は50ポイント、彩音は今終わり再マッチまでの時間考慮してもここで俺が勝てばアジア一位だ)


「よし、マッチした!! 最後の一戦だ悔いがないようがんばるぞ」


 俺はそう言って、ゲームを始めた。

 残り3分、ポイントは試合終了までに獲得すればいいのでたくさんキルを重ね、最速の陣地確保をすれば間に合う。


 キーボードには緊張で出た汗がいつも以上についているがその手を1秒でも離すわけにはいかない。


「よし、4ー0 時間は2分ある!! 野良マッチだが味方も強いから間に合いそうだ~ アジア1位確定だ」


 基本このゲームは10本先取だが、最初に5-0となると野球のコールド勝ちのように強制終了となる。

 この試合は天が味方をしてくれたのか、ソロマッチだとあまりないコールド試合になりそうだった。


 俺は勝ちを確信して最終試合に臨んだ。

 だが陣地確保の移動中、右腕に違和感を感じた。


「……ッ こんな時になんだ……」


 最近数時間ずっとゲームをしていたので、いくら健康志向の生活に変えたとは言え、腕は限界だった。

 一旦キーボードから手を離して、隣にあった冷たい飲み物が入っているマグカップに手を当てた。


 だが、この一瞬の隙がFPS 、対人ゲームでの命取りなのだ。

 俺が手を離した瞬間、後ろから近づいてきた敵に反応が遅れてアサルトライフルで倒されてしまった。


「ちょ、はぁあああ くっそマジかやらかした!! だるいって!!」



 思わず痛みのない左の手で机を勢いよく叩いた。

 ドンっと音が部屋の中に響いた。


「やめろ…… やめてくれ……」


 その出来事が起点となり、敵に陣地を確保されそのまま味方が全滅してしまった。


「あああああああああああああ」


 4-1、この時点で10ゲームが確定してしまった。

 完全に俺が甘かった、手を離したのもあるけれど、もしも彩音の配信を見ていた時間もやっていたら10ゲームでも間に合っていたのかもしれない。

 

 もしも前日、その前?? その1週間?? 1ヶ月前に1ゲーム勝っていたら??

 考えるだけでたくさん後悔があった。


 魂が抜けたように、俺は椅子から落ちた。



 12時になった、この試合は強制終了となり試合中の画面からロビー画面に切り替わった。

 アイテムBOXには通知が3つあった。


「3つ?? なんか受け取ってなかったっけ……」


 各サーバーのTOP3称号、そして各種ランクの称号 この2つがもらえるのは知っていた。


 俺はとりあえず、アイテムBOXを開いた。


「うん…… まあそうか…… すげえよ、あいつは……」


『アジアランキング2位』 この称号が一番上にあった。

 俺は悔しさで泣いてしまった。


 悔しい、悔しい、悔しい。


 涙を流しながら、俺はまとめて受け取りボタンを押した。


「……く まあ、頑張ったし、称号つけるか……」


 1ヶ月必死に頑張った、その努力は変えられない。

 俺は称号装着画面にいき、受け取ったものを確認した。


「ん、なんだこれ」


 俺は称号に見慣れないものがあった。


『Legend Soloprayer』


 入手条件、そのランクシーズンで一度も2人以上パーティを組まずに最高ランクで各サーバーTOP3に入る。


 見たことのない称号なので、俺は攻略サイトなどで検索してみたが見つからない。

 確かに4人チームの対戦ゲームで俺みたいに友達がいない限り手に入ることはなさそうな称号だ。


 俺はSNSで『YUU 称号』で検索してみた。


「え??」


 俺は目を疑った、SNSには『YUU 世界初ソロ称号』、『YUU ソロ最強』このようなサジェストがたくさん出ていた。



「……っ、うん よかった、これはこれで…… 悔しいけど…… そうか…… 世界初か……」


 思いもしなかった形で努力は報われた、そんな気がした。

 俺は涙を拭って、ベットに寝っ転がった。


「明日…… いや今日か、運動会多分死ぬな…… まあいいや」


 俺は布団に包まり、眠りについた。


 この時の俺は、インキャ引きこもりの人生がこの出来事によって大きく変わるとは想像もしていなかった……








※後書き

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