第5話 妹の膝は柔らかかった

 このような不規則な生活を続けてあれから1週間以上経過した。

 相変わらず授業の内容は入ってこないで眠い毎日だった。


(あ…… やばい…… ねむい……)


「え〜 ここの問題は……」


 生物の男性教師が黒板にミカヅキモを描いていると、授業終わりのチャイムが鳴った。

 礼をしたのち、解散となった。


「な、悠也 来週の体育祭なんかでるのか??」


「特に出る予定はないな……」


 俺がそういうと、東寺がバスケットボールを投げてきた。

 俺は東寺が投げてきたボールをキャッチした。


「なら、お前もやろうぜ!! バスケ!!」


「いいや、俺は特にスポーツとかはいいかな 体育祭の前日まで忙しいし」


 5月9日、それはランクリセット当日。

 今期はガチでやっていたので、流石に順位を落としたくなく最終日までやる必要があった。


「そっか、なら気が向いたら 言ってくれ〜」


「ああ、気が向いたらな〜」


 東寺はそう言って、部活へ行った。

 俺も帰りの準備をして、家に向かった。


 帰っている途中で、少し運動不足なのを思い出して遠回りすることにした。

 その途中でゲームショップの前を通った。


(家庭用ゲーム、しばらくやってないな……)


 駐車場の広告には新発売のRPGゲームのポスターや旗が置いてあった。

 人気シリーズの続編ということで、配信者もほとんどが配信予定と告知していた。


(まあ、やるとしてもランキングがリセットしてからかな)


 俺はそんなことを考え、ゲームショップの中に寄らないで家に帰った。

 家に着くと、彩音の靴があった。

 俺が2階に上がろうとすると、茶の間の方から足音がした。


「おかえり〜」


 足音は彩音で、エプロンを巻いていた。


「ああ、ただいま」


 俺はそういい、階段を上がろうとすると、彩音が俺の袖を掴んだ。


「お兄ちゃん、少し私に付き合って」


「な、なんだよ……」


 俺は入学式のあの日、久しぶりに彩音と話してから朝に少し会話するものの俺は先に行って別々に行って家でもほぼ話していなかった。


 それもそのはず、『自分の推しが目の前にいる自分の妹』、『自分の超える目標も自分の妹』 この2つの現実を知って正直敵対心というか、なんとも言えない気持ちになっていた。


 彩音は僕の目の下を指でなぞった。


「ちょ……」


「うん、やっぱり睡眠不足 お兄ちゃんまともに寝れてないでしょ」


「余計なお世話だ、俺は彩音を超えるため戦う」


 俺は彩音の手を振りほどこうとしたが、離れなかった。


「お兄ちゃん、ちょっときて」


 彩音は俺の袖を引っ張りながら、茶の前向かった。

 寝不足で力が入らず、俺は茶の間まで連れて行かれてしまった。


 茶の間に着くと、マグカップが1つ置かれていた。

 そこに彩音が、レモンが入った容器から液体を注いだ。


「はい、お兄ちゃん!!」


「ああ、ありがとう……」


 僕はソファーに座り、渡されたものを飲んだ。


「これは、美味しい……」


 飲んでみると、それはハチミツレモンだった。

 あったかく、味もそんなに濃くなくて飲みやすかった。


「どう?? お兄ちゃん疲れてそうだったから作ったの!!」


「うん、美味しい…… さっきは悪かったな……」


 俺がそういうと、彩音は俺の横に座った。

 

(距離が近い……)


「最近お兄ちゃん、ランクで勝つことを考えすぎていて あんまり眠れなさそうだったから作ったの」


「だが、このままでは俺は…… 彩音にも勝てないどころか3位になってしまう」


 突然目の前の視界が揺れた。

 多分日頃の疲れが溜まっていたのか、俺はこのままソファーの上で眠りについてしまった。






 あれからどれくらいが経過したんだろう??

 俺が目を覚ますと、頭の部分に肌色の何かがあった。

 寝起きで目をかくと、それは彩音の太ももの部分だった。


「……ッ」


(ちょ、待て!! 状況の確認からだ…… ハチミツレモンを飲んだ後に俺は眠気でそのままソファーに寝た、確かにそうだ、そのはずだ!!)


(中学生のすべすべの肌の膝枕は流石に妹とは言え犯罪者になりかねない)

 

(なんとかしないと……)


 深呼吸をして、頭を彩音の太ももから避け自然に起きた感じの演技をして起き上がった。


「ん、ふぁぁ あ、寝てた…… さ、ランキングやらないと……」


 俺は適当なこと言って、部屋に行こうとした。


「あ、お兄ちゃん おはよ〜 私の膝枕はどうだった?? 」


 彩音がそういうと、僕はくしゃみが出た。


「な、なんの話??」


 俺がそういうと、彩音が近づいてきた。


「最近お兄ちゃんが、寝不足で辛そうってうーちゃんに言ったら、私の膝枕をしたら良くなるって言ってたからやってみたんだけど、嫌だった??」


 彩音はキョトンとした感じで言った。

 その顔を見て多分悪気はないと思うし、普通に嘘を言われてるんだろうなとすぐにわかった。


「あ、うん す、すごくよかった いや〜 肩も軽い感じする〜」


 純粋な気持ちを無駄にするのは良くないと思い、俺はそう言った。


「本当?? それはよかった〜」


 彩音は嬉しそうに笑顔でそう言った。


(なんで俺はこんな純粋で優しい妹に負けてるのか…… まあ優しさってか、思いやる気持ちとかなのかもな……)


 俺は心の中でそういい、立ち上がって部屋に向かった。

 階段を登る途中で止まり、彩音の方を向いた。


「今日こそは彩音に勝つ、その優しさを後悔しろ」


 俺は正直妹に甘やかされ、まるで年下のように扱われたのが恥ずかしくてライバルみたいなことを言ってしまった。


「うん!! でも私じゃないよ、『私たち』だからね!!」


「そうだよな、まあ この恩はいつか返す……」


 俺はそう言って、自室に向かった。

 その日は疲労が回復したこともあって、勝率も過去最高の87%で彩音との差も300ポイントほどになった。

 彩音を見習い、俺も調子がいいので12時に寝ることにした。


(妹の膝枕はいやされ…… ち、違うそうじゃない 今日は運が良くてこんなに勝てたんだ!!)


(推しのあの子に膝枕…… 顔も可愛いし純粋、でも妹なんだよな……)


 流石にシスコンはまずい。

 そんなことを考えながら布団の中で丸まっているうちに眠気がきた。


 ランクリセットまで残り3日。







※後書き

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