『引きこもりも歩けば元恋人の妹にあたる』

「犬も歩けば棒に当たる」昔の賢人さかびとかく語りき。

 しかし、俺はえてこう言おう、

」と。


                    ◆


 今回の間違いは小説である。

 働いてる時に読めなかった上下2000ページ大編だいへんに挑んだのが運の尽き。

 いやあ。流石あの作家。一気に読ませるもんな。

 …もう夜中か。コンビニで酒…買っちまうかな。

 が。たまに飲んでしまう俺がおり。


                    ◆


 久しぶりの酒をビニール袋に入れ、ルンルンで帰路についた時の事。

 例の緑地公園りょくちこうえんである。

「…ひっく」誰かののどが鳴る音。

「…今度こそスルーで」と俺はつぶやく。ここ最近、このささやかな深夜の散歩での『イベント出来事』が。少し食傷しょくしょう気味であるのは否めない。

 が。しかし。

 喉を鳴らしていたのは―学生服の少女であり。その上。もと恋人の妹であり…

 ああ。コレはスルーしたら『何か』に殺される…


はなだちゃん?」と俺はこわごわベンチに座る彼女に近づき。

紅樹こうきさん?」と彼女は顔をあげ。

「…何してんの?」もう24時です。良い子はお家に帰りましょう。

「…お姉ちゃんと喧嘩した」

「で?家出?」

「だって家には2人だけだもん」そういや瑠璃るりの家に下宿してたな。高校ちかいからって。

「そりゃ気まずいが。友達は?」こういう時こそ友達を頼ろうや。

「急には泊められないってさ」

「…その格好じゃネカフェやカラオケも厳しい」

「失敗した」

な」

「…それ言わないで」

「悪い」


「紅樹さん元気?」

「いいや。メンタルやって療養りょうよう中。見事ニートだな」

「…意外」

「そうでもない。」心の強さとか関係ない。

「でも話せてる」不思議そうに言う彼女。

「薬んでるからね」俺は言い訳

「…お酒。飲んでいいの?」鋭い。よく見てるなあ。

「たまには良いという…内緒な」

「まあ、良いけど」

「…バレたからにはやらせてもらうぞ…数ヶ月ぶりでもう我慢ならん」と俺は縹ちゃんの隣に座り、発泡酒のプルタブを上げ、喉に流し込む。

「こうはなるまい」引いた顔で言う縹ちゃん。

「―いやあ。く」と俺は息を吐きながら言い。

「お酒ってそんなに良いの?」

「…すこし気分にブーストがかかって気持ちいい、いい気分の時に飲むなら最高」

「働いてないのに…」うぐ。そこはそっとしといてよ。

っ!!」完全なるヤケである。


「…お姉ちゃん。出来たよ」隣に座る彼女は秘密を言うように言い。

「でしょうね」俺は厳粛げんしゅくに受け止める。

「モテるからね」

」かの妹に愚痴る事ではないが。

「そうやって男を釣って…より良い生殖相手を探してるんだよ。メスの本能だから」冷静に姉を分析する彼女。

「そういうはいかがなものか」言い出したのは俺なのに。

「私ははなりたくない」と彼女は言い。

「とは言え…君もそこそこの美人さんだ」肩までの髪が繊細な顔立ちを包んでおり。あと数年したら魔性の女になりそうだ。

「一応、メイクとかもしてるから」

「とは言え。そこまで濃くない。ほぼ素の顔でそれなら…美人だ」なんて言って俺は切ない気分になる。瑠璃を思い出したからだ。

「口説いてる?」彼女は俺の顔を覗き込んで言い。

「酔っ払いの戯言たわごとさ」俺は誤魔化ごまかす。

「私、紅樹さんなら良いよ?」彼女は言うが。

」とりあえずの返し。

「大学生になったら良い?」嫌に食いついて来て。

「俺よりいい男はいっぱい居る」

「お姉ちゃんの好みと私の好み一緒なんだよ?」見つめてくる目が妙に色っぽく。

「人を見る目を養え」こう言うしかない。下手しい

「信用されてないなあ」


「…もしもし」俺は話を聞きながら、携帯で姉貴に発信していた。

「今から元カノの妹連れて行くからベット空けて下さい、お願いします」


 こうして。

 俺は元恋人の妹を保護した。

 …ちょっとドキドキしたのは予想外だった。

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