『引きこもりも歩けば元同僚にあたる』

「犬も歩けば棒に当たる」昔の賢人さかびとかく語りき。

 しかし、俺は敢えてこう言おう、

」と。


                     ◆


 動画配信サービスで洋ドラを見始めたのがそもそもの間違いの始まりであり。

 俺は2徹をキメかけており。

 流石にここでストップが入った。

「ちょっと外歩いてきな」と姉に言われたのだ。


                     ◆


あと何シーズンあったかな」とブツブツ言いながら歩くは例の緑地公園りょくちこうえん

 暗闇に包まれた通路。かすかな街頭で照らされるベンチ…って。

 人がいらっしゃる。またもや酔っ払いか?と思うが素面しらふ臭い。しかし、項垂うなだれてはいる。


 こういう時は…知らん。黄昏たそがれるのは個人の自由である―


「おい。お前!」

「あ?」絡まれるのは勘弁しろよ。

「…加藤かとうだろ?」と声がする方を見れば。

「…げ。大賀おおが」コイツは―だ。

「…お前療養りょうようで会社辞めたよな」

「おん」

「元気か?」

「元気じゃねえ」実際

「お前が抜けたせいで―」

「お前が被ったか、

「おうともよ。

「スマン」

「一発なぐらせろ」

「…それでお前の気が済―」っと右頬と下顎に良い衝撃が走る。

「スッキリしねえな」と彼はのたまい。

「…警察呼んだろか?」と俺は右頬をかばいながら言い。

んだろうが」と大賀はムッとしながら言う。

「言葉のあやってアレだバカタレ、マジで取るな。まあ…許してやっけど」

「お前は」彼はそういう。まあ、当然と言えばそうか。

「…ごめん。いや、言われたところで何だって話だが」

「…全くだぜ」

「んで?」と俺は問う。この平日ど真ん中の水曜の深夜に緑地公園に居る理由とは。

「お前が捨てていった仕事で下手こいて…絞られて…へこんで」

「深夜の公園で黄昏たそがれってか」

「まあな。酒飲む気分でもねえ」

真面目マジメ過ぎる。俺なら飲んで忘れる」

「嘘こけ。俺より真面目だった癖に」

「そうでもないぜ?抜くトコは抜いてた…」キチンと出来てたら潰れちゃいない。


」大賀は俺に悲しげに言った。


「お前に迷惑かけたくなかった」俺の持ってた仕事はコイツと被る部分が多かったからな。

「結果としてかけてんじゃんよ」

「んまあね」痛いところを突くんじゃない。

「いやあ。しかし。お前が居なくなってから…まらんかった」

「張り合い…無くなったか?」コイツと俺は同期入社どうきにゅしゃの仲間であり、ライバルであり。

「ああ。で。おっさん上司の機嫌とるばっかでさ」

「まったくだよ…いやな?別にお前が頑張らないかんのは、いかんのだが」

「人は…案外あんがい近い他人たにんに引っ張られている…のかな」

「…そういう事かもしれん」

「…とは言え。俺はあそこで生き残っていくほど強くなかったってだけの話でさ」

「お前はお前なりにやってたじゃんよ」

「大賀、やってる」

「今は職場に居ないお前が言うか?」と苦笑いをする大賀。

「…客観的にもそう思えるって事だよ」と俺が言えば。

「そうかよ」大賀は笑っていた。

「…しかし。お前終電しゅうでんどうしたよ」

「家にも帰りたくなくて」

「別に家に上司は居ねえ」

「社宅だから、近所に上司が居てな。んだ」

「被害妄想も良いところだ…んまあ。遠いならウチ泊まってけ」

「…いいのかよ」

「こんくらいはしないと罰あたりだ」

「ありがとよ」


 こうして。

 俺は昔のライバルと語り合い。

 少しだけ、彼が理解できたような気がした。

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