【KAC20234】―①『夜に歩けば他人に当たる』

小田舵木

『引きこもりも歩けば酔っ払いにあたる』


「犬も歩けば棒に当たる」昔の賢人さかびとかく語りき。

 しかし、俺はえてこう言おう、

」と。


                 ◆


 事の起こりは。

 発売したばかりのゲームを徹夜プレイし、朝に疲れはてて、目が覚めたのが深夜24時であり、とりあえず腹が減ったので、近所のコンビニに出かけた時の事である。


 俺の家は緑地公園りょくちこうえんの近所であり。

 公園を突っ切れば、コンビニで。

 とりあえず…おにぎり欲しいよなあ、とスエット姿で歩いていたのだが―

「水…」とつぶやくくスーツ姿のお姉さまが通路をふさいでおり。

「ああ。警察案件あんけん」と呟き俺はスルーを決め込む。こういうのは関わるとロクな事にならない、というのが引きこもりの認識である。

「…スルーかあ、この野郎」情けなく道路に肢体したいをおっ広げるお姉さまは、かく絡み。

「…。家まで帰るまでが飲み会だぞ」と俺は寝ころがる姉貴に語りかけ。

「…愚弟ぐていじゃないかあ」と姉貴は今更ながらに俺を認識。

「襲われるぞ」としゃがんで俺が言えば。

「回収せえ」とねだる姉貴。

「歩けカス」と俺は自分を棚に上げてなじり。

「歩けてたらこうなってねーっつの」と姉は返事。

「…今からコンビニいくから待ってろ」と俺は姉を助け起こし、肩を貸し、通路の脇のベンチに乗っける。いつの間にか重くなってやがら。

「…私を放置するのね!たかしみたいに!!」とかベンチでへこたれながら言う姉貴。

「振られたのね?」ご愁傷しゅうしょうさん。

「…こっぴどく」と半泣きの姉貴。

「…おごるわ」水と肝臓ドリンク。

ウチのカネだろうが!!」

「へいへい…」


                    ◆


 コンビニから帰れば。ベンチの姉は溶けて一体になりつつあり。

「馬鹿あね…買ってきたぞ、水と肝臓ドリンク」姉貴を揺さぶりながら言う。

「…後5分寝かせて下さい」

「ここは職場でも家でもねえ」

「…愚弟じゃんよ。つまり?」目を開けつつ言う姉。

「外だ。アンタ」と俺が言えば。

「今日のはだから」とか言い出し。

「隆に今日振られたのか?」と俺は水を差し出しながら問い。

「…あったのに」と水を口に含みつつ言う姉。

「そういう欲丸出まるだしがアカンのと違うか?」

「…そこは否定せん」

「…今は肝ドリ飲んどけ」と俺は瓶を差し出す。

「アンタこういうの何処で覚えた?」と受取りながら問われ。

「あのね、社会人やってたから」俺は就職はしていたのだ。

「…そうだった、ね」と伏し目がちに受ける姉。

「別に気ぃ使わんで良いぞ」と俺が言えば。

「だってさあ」と姉は言うが。

」オーバーワークが原因で体とメンタルをやってしまって。今は療養中だったりする。傍目はためには健康そうに見えるから、普段はこの姉貴に罵られているもんだが。


「…一概いちがいに君だけが悪いとも言い難い」と酔った姉は言う。らしくない発言だ。


「姉貴らしくない」と俺は思う。この人は俺以上に突っ走るクチで。

「私だってさ…家ではああ言うしかないじゃんよ?親の手前」

「別に気にすることないだろ?」オヤジもオカンも同情的だ。無理しやがって、と。

「いやあ?お父さんもお母さんも使ああ言ってるだけでさ」

「…そんなもん?」と俺が問えば。

「そんなもん。やっぱのよ」

「…で?姉貴が無理してをやってると?」家族という劇団の中でのロール役割

「そのつもりはあるな」とフンと鼻息を吐きながら言う姉。

「苦労させるな」と俺は何処か他人事のように言い。

「全くだ。で。彼氏に泣きついてたら―『重い』だとさ」

「…『ウザい』の間違いではなく?」元気玉げんきだまみたいなキャラしているのだ、この人は。

「私だって女だっつう」むくれて言う姉貴。

「俺にとっては頭の上がらないみたいなもんだけど」昔から男気おとこぎが強かった。社会人になってからは俗にいう『バリキャリ』な感じだった。

「お前なあ。今から脱いでやろうか?」スーツのジャケットに手をかけるな。

猥褻物わいせつぶつ陳列せんで良い」姉の体は見飽きてる。風呂上がりにそのまま彷徨うろつ性質たちだからだ。

「いやあ。拒否られるなあ」

「…姉貴」なんとも言い難い。どう慰めるべきか。

「…あたり」と彼女はしゅんとして言う。

「しないほうがマシだろ?そこは姉弟きょうだいだから分かるよ」俺達の共通点は、というところ。

「我が弟よお!!」と抱きついて来る姉。

「酒臭えよ!!どんだけ飲んだんだよ?」

「んあー?ワインのボトル開けて…後ポン酒も一本開けたかな。後ビールをジョッキで何杯か…」ウチの家系は酒豪だらけである。まあ、酔うことは酔うがダウンだけは絶対しない。意地で家に帰りたがる。

「無茶しよる」

「振られた日ぐらい」

「へいへい…んじゃ帰ろう」

「肩貸して」


 こうして。

 夜の散歩は姉の回収で潰れた。

 そして姉と少し仲直りをした。

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