第19話 絵里とプールへ
私、友坂絵里。夏休みの宿題は七月中に終わらせているので、後は目一杯遊ぶだけ。そして今日は、八月二日。悠とプールに行く日だ。彼とは私の家の最寄り駅で午前九時半に待合せしている。
悠の心はまだあの時の事を引き摺っている。ちょっとした仕草で分かる。だけど去年程酷い状態ではない。
本当ならこの時期にこんな事はしたくなかった。彼が自分で自然と立ち直り始め、そして三年生になってから彼の側に行くつもりだった。
ところが高橋友恵と付き合い別れ、今は工藤真理愛が彼に興味を抱き始めている。このままでは万が一が有る。
だからあえてプールに誘った。一つには私を思い切りアピールする事。中学の時から彼は私を友達として大事に接してくれた。中学時代は北沢も含めて三人で海にも遊びに行った。
チャラ男達に声を掛けられては、彼らが守ってくれた。強引な人は、痛い目に遇って退散する時も有ったけど。
でもまだ中学生だったからか知らないけど、私には全く興味を示してくれなかった。私は自分でも結構綺麗な方だと思っている。スタイルも良い方だと思う。
でも興味を示してくれない。だから今日は接触型肉体アピールで、とにかく私を意識させるようにするんだ。
今日は格好も白のショートパンツとピンクのTシャツ、それにオレンジの少しヒールのあるサンダル。一人ではとてもこんな格好は出来ないけど悠と一緒なら安心だ。
私は家を出て五分。駅に着くと改札に悠が待っていた。紺のコットンパンツと水色のTシャツ。肩にスポーツバッグを掛けている。ちょっと格好いい。
「悠、おはよう。待ったあ?」
「おはよ、絵里。今来た所だ」
「じゃあ行こうか」
「ああ」
悠のマンションの最寄り駅から私の家の最寄り駅まで四駅。これから六つ先の駅にある遊園地に向かう。そこの一画にプールがある。
俺、坂口悠。今日は絵里と一緒にプールに行く。中学時代から一緒に海に行く事も有ったので、個人的にはあまり抵抗はない。
でもその時は芳美も一緒だった。だが今日は二人だ。なんで絵里が俺をプールに誘ったのかは知らないが、時間もあるで付き合っても良いだろう程度の気持ちで来た。
午前九時半待合せなので、彼女の家の最寄り駅に十五分前に着いた。スマホを弄って待っていると
絵里が、駅の改札に向って来た。ショートパンツとTシャツだ。やたら胸が強調されているのは気の所為か。
二人で電車に乗ったが、夏休みの所為か結構混んでいた。仕方なく入口の端に二人で立っているとちょっとした揺れで絵里の体と触れる。
絵里は何も無かった様な顔をしているが、こちらは堪らない。腕が彼女の胸辺りに触れると流石に気になる。だから離れようとすると何故かシャツを引っ張って、俺の顔をジッと見る。
なんか意味有るのかと思っても聞く気にもならず、顔を電車の外に向けた。
遊園地のある駅に着くと電車の中からドドッと人が降りて来た。どうも皆この遊園地が目的で乗って来たようだ。まあオンシーズンだからな。
入口の所で入場券とプール券を二人分かって中に入る。プール側に歩いてさっき買ったチケットを係員に見せて中に入った。左手に更衣室がある。
「悠、着替えたらここで待合せね」
「了解だ」
俺は更衣室に入って、空いているロッカーを開けて着替えた。と言っても男だ。着ている物も少ないし、サポータと海水パンツをはいて、水泳キャップを手に持って直ぐに外に出た。財布類は防水バッグに入れてある。
更衣室の外で待つこと十五分。知ってはいたが、やはり女性は着替えに時間が掛かる。やっと絵里が出て来た。
この前購入したオレンジのビキニだ。女の子にしては背も高くてスタイルがいい、その上美少女となれば当然、…周りの男達の視線を集めた。
「悠、待ったあ?」
「少しだけな」
「そういう時は全然とか言うのよ」
「事実を言ったまでだ。何で俺が絵里にそう言わないといけない?」
「もう悠は。いいから行こ」
何が理由か知らないが少しご立腹だ。
「悠、そこのテーブルと椅子が空いている」
「監視員から少し遠いけどいいのか?」
「なんで?悠がいるから構わないし、ずっと一緒だから」
「そうか」
何も無ければいいのだが。
「悠、先ずあれしようか」
絵里が指差したのはウォータースライダーだ。
「ああいいぞ」
ふふっ、先ずは最初にこれで。
「結構並んでいるな」
「人気有るからね」
十五分程待って順番が来た。係員の人が
「彼氏さんが前ですね。彼女さんは彼氏さんのお腹に手を回してしっかりと掴んで下さい」
「はーい」
何故か、勝手に二人で滑る事になっている。別々でも良いんじゃないか。まあ決まってしまった事だし、仕方なく俺が先に座った。後ろに絵里が座ると思い切り俺のお腹に腕を回して来た。
こいつ意図的か、俺の背中にギュッと柔らかい二つの感触が。
「準備出来ましたねー。はいスタートです」
ふふっ、思い切り私の胸を悠の背中に押し付けている。これだったら充分感じるだろう。
筒の中を右に回り左に回りぐるぐる回ってプールに勢いよく放りだされた。
「うわっ」
「きゃあ」
二人共思い切りプールの水を顔に浴びた。
「悠、楽しかったね。もう一度やろう」
「えっ、もう一度か」
「うん」
もう三回目だ。流石に俺の理性がきつくなって来た。いくらサポータを履いているとしても不味い。
「絵里、流れるプールに行こう」
「えっ、もう一度やろうよ」
「いや、もう駄目だ」
ちょっとだけ悠のあそこを見た。何か膨らんでいる様な。ふふっ、よしよし。
「分かった、じゃあ浮輪借りよう」
「おう」
私はお尻を浮輪の中に入れて浮いている。側に悠がいる。
プカァ、プカァ、プカァ
「悠、後ろから引っ張って、浮いているだけじゃつまらない」
「いいのか」
「うん」
「よし!」
悠が思い切り引っ張ってくれる。楽しい。
あっ!引っ張られ所為で、見事に浮輪ごと横にひっくり返ってしまった。
「あははっ」
「何笑っているのよ」
「だって可笑しいから」
「もう、じゃあ前に引っ張って」
「分かった」
また、ひっくり返ってしまった。悠が腹を抱えて笑っている。
「もう止めた。休憩しよ」
「ああそうしようか」
俺達は、テーブルに戻ると
「悠、喉渇いた。炭酸入りのオレンジジュースが飲みたい」
「分かった。俺が買って来る」
「うん、頼むね」
絵里を一人にするのは少し心配だけど仕方ない。売店の前は並んでいた。少し待ってから戻ると案の定、
「ねえ、君可愛いね。俺達と遊ばない?」
「連れがいます」
「良いじゃないか。俺達の方が楽しいよ」
「嫌です。あんた達なんかとは口も聞きたくないでのあっちに行って」
「何だと、人が下手に出ていれば好きな事言いやがって」
一人が手を上げようとした時
「おい、その人は俺の連れだ。手を出すんじゃない」
二人が振り返った。
「ふん、何だ手前は。せっかくこの子と楽しくしようってのに口出すな」
「言っているだろう。その人は俺の連れだ」
「連れならもう諦めろ。俺達がこの子と遊んでやる」
「聞き分け無い人達だな」
「両手が塞がっているのに偉そうな事言うんじゃない」
いきなり殴りかかって来たが、スローモーションを見ているみたいだ。さっと横に避けると
「お兄さん達、あっち見たら」
俺は、顔をこちらに近づいて来ている監視員に向けた。
「ちっ、面白くねえ。行くぞ」
俺は、買って来たジュースとコークをテーブルに置くといきなり絵里が抱き着いて来た。
「おい!」
「悠、怖かったよ」
「わ、分かったから。皆見ている」
「でもう」
「いいから離れてジュース飲め」
ちょっと不満顔だが離れてくれた。
それから私達は波の出るプールにも行った。この時は波が来るたびに悠にしがみついた。最初は嫌がった素振りをしていたけど、途中から私が抱き着くと腰のあたりを持って一緒に跳ねてくれた。
「悠、そろそろお昼にしない」
「いいけど」
「じゃあ、今度は私が買ってくる」
「いや、またつまらない事が起きると面倒だから一緒に行く」
「ふふっ、ありがとう」
それから、昼食をゆっくりとって、更に二時間位遊んで、プールを後にした。
電車に乗りながら
「悠、楽しかったね」
「ああ、とても楽しかったよ」
「ねえ、悠お願いが有る」
「なに?」
「また、会えないかな?」
「…………」
俺は絵里と遊ぶのは今日だけのつもりでいた。どういう事だ。絵里が俺と会いたいと言って来ている。確かに用事は入っていないが、
「午前中なら月半ば位までいいよ」
「じゃあ、毎日会ってくれる」
「えっ?どうしたんだ。絵里らしくないな。俺と毎日会いたいなんて」
「そう?でも私の素直な気持ちよ」
「絵里、陽に当たり過ぎたんじゃないか?」
「そんな事無い。会いたいの」
「毎日は無理だ」
一人で居たい時も有る。それに毎日会えば間違いが起きるかもしれない、あの時の様に。
「じゃあ、どの位会えるの?」
「週一回なら」
「えーっ、せめて週二回」
「分かった。会いたい時、連絡くれ。但し前日までな。当日は止めてくれよ」
「分かった」
これで接触型肉体アピールは完了。充分私の体を知って貰えた様ね。勿論中身はまだだけど。
次はメンタル面で悠の心の中に入って行く事。難しいけど、あの高橋さんにだって出来たんだ。私が出来ない事は無いはず。
―――――
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
次回以降をお楽しみに。
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