第20話 工藤真理愛と遊園地


 私、工藤真理愛。夏休みに入った。七月中には宿題を終わらせて八月は自由に使うつもり。

 この夏、最大の目的の一つが、坂口君と友達になる事。理由は彼を知りたいという欲求から。

 何故、あれほどの能力を持つのか。遺伝なのか、突然変異なのか。そして彼がこれからどこへ進もうと思っているのか。


 昔から興味心の強い私は知りたくて仕方なかった。そしてあの鋭い瞳の奥にある悲愴感。彼は過去にとても口には出せない何かが有った筈。それを知りたい。


 別にこれを知ったからどうって事ない…いやどうって事あるかもしれないから。


 今、彼と壁が無く話せるのは中学からの知合いだという友坂さんだけ。だけど彼女は彼の何かを知っている様な素振りを偶に見せる。


 でも彼女に彼の事を聞いても全く相手にしてくれない。この前彼が休んだ時もそうだったけど、私を彼に近付けない様にしている。


 だから、私は自分で彼に確かめるしかないと思った。そして彼とこの夏休みに会う約束が出来た。勿論この一回で終わらす訳には行かないけど。



 明日はこの歳で恥ずかしいけど彼と遊園地に行く事にした。あそこなら気持ちも楽になれるだろうし、何よりも二人きりで話す事が出来るから。




 俺、坂口悠。一昨日絵里と一緒にプールに来た。そしてそのプールが有る遊園地の駅の改札にいる。


 今は、午前十時十分前。工藤さんと午前十時に改札で待合せをしている。なんで同じ遊園地にくるんだと思っていても工藤さんは俺と絵里がここのプールに来たなんて知らないし仕方ない。


 ここは小さい時、家族で来たと事が有る位だ。改札で待っていると彼女が電車から降りて来た、こちらに向かっている。俺と視線が合うと手を振った。


「お待たせ。待ったあ」

 なぜ、待ったあと聞くのか。遅れて来るならまだしも良く分からない。


「いえ、先程来たばかりです」

「そうかあ、じゃあ中に入ろうか」

「ああ」



 入口で入場券を買い、中に入った。プールとは違い、まっすぐに行く。

「坂口君、どれから乗ろうか?」

「どれでもいいですよ」

「じゃああれから」

 彼女が選んだのはジェットコースター。それも車両式ではなく椅子型だ。大丈夫か?


 何故か、待ち行列が無い。まあそんなものだろう。

「坂口君、これって」

「えっ、どうしたの?」

「コースターの車両って無いの?」

「ないけど」

「えっ!」

 彼女の顔が少し青ざめている。大丈夫かな?

「止めるか」

「う、ううん。乗る。絶対乗る」

 その自信何処から来ているんだ。


 二人して並んで座った。シートベルトを締めると

「ねえ、私のシートベルト確認して」

 冗談かと思っていると彼女を顔を見て…冗談では無い事が分かった。彼女に覆いかぶさる様にして確認すると安全バーが上から降りて来た。


ガシャン、ガシャン、ガシャン


「坂口君登って行くよ」

「……………」

 降りてどうする。



頂点に来て下に向き始めた。


きゃーっ、きゃーっ。


きゃーっ、きゃーっ。


きゃーっ、きゃーっ。



 スタート地点に戻って来ると

「大丈夫ですか工藤さん。降りますよ」

「あんが、あんが」

 駄目だ、何を言っているか分からない。仕方なく彼女のシートベルト取る為に俺の体が彼女の体を覆う様にしてロックを外すと

「あ、ありがとう」


 工藤さんは帰る時の階段を手摺に摑まりながらゆっくりと降りると

「べ、ベンチに座ろう」

「ああ、そうしようか」


 二人で座るといきなり工藤さんが俺に抱き着いて来た。

「坂口君、怖かった。怖かったよー」


 本当に怖かったようだ。体が少し震えている。仕方なく、彼女の背中に手を回して。背中を撫でてあげると


「ありがとう坂口君。助かった。死ぬかと思ったよ」

 自分が選んだんだろう。


 体は十分位して離したが、更に十分位休んだ。


「大丈夫ですか。無理なら帰りますか」

「大丈夫。ちょっと予定外だっただけ。今度はあれ乗ろう」

 はぁ、上まで椅子で上がって、ストンと落とされる奴だよ。この人学習能力無いのか?


 それも終わった後、ベンチに座って、また俺にまた抱き着いて来た。仕方なしにまた背中を擦ってあげると


「あ、ありがとう。坂口君優しいのね」

「この位いいですよ。それよりもっと簡単な物に乗ったらいいんじゃないですか」

「そうね、そうしようか」


 次に目指したのは、えっ!


「これ乗るの?」

「うん」


 今度選んだのは、な、なんとメリーゴーランドだ。これは俺が頭痛い。


 乗りながら思ったのは、早く止まってくれだけだ。


「次あれ乗ろう」

 今度はコーヒーカップだ。


 でも回し過ぎて、またふらふらになっている。


「大丈夫ですか?」

 今日はこればかり言っている。


「うん、少し休んだら食事にしようか」

「そうですね。それが良いです」


 入ったのは、遊園地内の西部劇を模したレストランだ。俺はアメリカンらしくミディアムレアステーキ二百グラムのセット、彼女はハンバーグランチのセットだ。食べれるのか?


注文した後、

「ごめんね。もっと楽しい筈だったのに、なんか予定くるちゃった」

「予定?」

「うん、今日は二人で楽しく乗り物に乗って、色々お話したかったんだけど」

「話ならこれからいくらでも出来るじゃないですか」


「でも、何かきっかけがつかめればと思って」

「十分掴んでますよ。俺は楽しかったです」

「ほんと!良かったあ。じゃあこの後一杯話せるかな?」

「いいですけど」

 この人いったい何が話したいんだ?


 注文が運ばれて来て、食べながら

「ねえ、坂口君の家って」

「っ!」


 俺は、その言葉に体が反応してしまった。何も言わずに外に出るとトイレを探した。必死に我慢して何とかトイレに駆け込むと

「ぐえっ」


 少ししか入ってなかった胃の中から食べたばかりの物がでると、後は空っぽの胃から苦い胃液だけが出て来た。苦しい。


 少しの間、そのままにしていると少し楽になった。手を洗いうがいをしてトイレの外で立ちながら少し休んだ。



 私、工藤真理愛。私が最初の質問をしようとした時、坂口君がいきなり立って外に出て行ってしまった。どうしたんだろう。私何か変な事言ったかな。口に出したのは、


 坂口君の家って


という言葉だけ。まさかこれに反応したの!


 私は店員に直ぐに戻るからと言うとテーブルに足りるはずのお金を置いて彼を追いかけた。


 でも何処にもいない。必死に周りを見たが居ない。だけど下手に動かない方がいい。どっち行ったのか全く分からない。


 注意しながら遠くの方まで見ていると、居た彼だ。トイレの側で立っている。私は急いで走って、彼の側に行った。


「どうしたの坂口君。急に飛び出したから心配で…」

「気にしないで下さい。貴方には関係ない事です。俺今日はもう帰ります」

「えっ、そんなぁ」

 彼はもう一言もしゃべらずに出口に向かった。


 このままでは不味い。何とかしないと益々彼との間が開いてしまう。急いで追いついて

「ごめんなさい。ごめんなさい。私が悪かったみたい。だからこのまま別れないで」

「良いんです。それより俺の勝手ですみません。帰ります」


 彼はそのまま出口から出て行ってしまった。どうしよう。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

次回以降をお楽しみに。


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