プリンとシュークリーム

桐山じゃろ

プリンとシュークリーム

 突然プリンがたべたくなったのだ。

 日頃から欲望に弱い私は、真夜中だというのにコンビニへ走った。


 コンビニには何でもおいてあるのに、こういうときに限ってプリンだけ売り切れているものである。

 仕方なくカスタードシュークリームを代替品として購入し、マイバッグをぶら下げて帰り道をとぼとぼ歩いていたときだった。


 真上から、光が降り注いだ。


 何故私が真夜中――深夜3時まで起きていたかというと、大学のレポートが終わらないせいである。

 朦朧とした脳には糖分が効果的だから、プリンが食べたくなったのはある意味必然。

 遅々として進まない白いレポートを前に、プリン食べたい欲がむくむく膨らみ、コンビニへ行く。

 しかしプリンは売り切れ。代替品はシュークリーム。

 脳が受け入れたくない事実や本当はプリンが食べたかった欲やシュークリームもこれはこれで美味しいはずだからと慰めるもう一人の自分だとか、思考が混乱していた可能性は否めない。


 だけど、頭上からの光は、間違いなく、私を天へ吸い上げたのだった。




「你好」

「に、にいはお?」

「你明白我的话吗」

「何って?」


 気がついたら真っ白な部屋で寝かされていて、イケメンが私を見下ろしていた。

 髪も肌も、瞳の色まで真っ白で、整った顔立ち。

 マネキンのように無機質な感じはするけど、誰が見ても「イケメン」と言うだろう容姿をしている。

 そのイケメンが何故か中国語(だと思う)で話しかけてきた。

 生憎、中国語は履修していない。かろうじてニイハオとシェシェが解るくらいだ。


「――――」


 イケメンはノイズのような音を出した。人間が出せる音じゃない。機械音だ。

 もしかしてこのイケメン、ロボットか何か?


『きこえますか あなたが ふだん しようする げんごを おしえて ください』

 こいつ脳内に直接!?

 音自体は不明瞭なのに、何故か意味は理解できた。

「え、ええと、私は、日本語を話します」

 またノイズを出した後、イケメンはニコリと笑った。うっわ、素敵。


「この星で一番多くの人間が使用している言語だったのだが、どうもレアを引いたらしい。日本語は……ふむ、一億人以上が使っているなら、レアではないか」

「人数より母国語にしてる国の数をカウントしたほうがいいんじゃない? 中国語より英語のほうが普及してる気がするし、日本語は日本でしか使われてないからレアよ」

「なるほど、早速勉強になった」

 イケメンが納得したので、私はそろそろ身体を起こそうと思った。

 が、起き上がれない。身体のあちこちが固定されてる。

「ところで、今これどういう状況ですか?」

「君たちからしたら、私たちは宇宙人というやつだ。君はサンプルとして色々調べさせてもらう。ああ――君たちの感覚で言うところの三十分もしたら五体満足で返すから、心配しないで欲しい」

「ねえ、五体満足ってことは心的外傷とか精神的ダメージとかはあるってこと?」

「記憶処理もするよ」

「さらっと言ってくれるじゃない」

 あまりに非現実的すぎて、もはや夢を見ている気分だった。


 私は体中を見られた。そりゃあもう、裸にされて、あちこちよ。

「目!? 目はやめて! 怖い! めっちゃ怖い!」

「痛みはないはずだよ、大丈夫大丈夫……ところで、ずっと握りしめているコレは何?」

 私はこの期に及んで、左手にマイバッグをしっかり握りしめていた。

 中に入っているのは、小銭入れとシュークリーム。

 そう伝えると、袋の中身を取り出された。

「通貨。ふむ、金属片に価値をつけて取引に用いていると。こちらは……食物か」

 イケメンはシュークリームを色んな角度から熱心に見つめた。

「食べてもいいわよ。その代わり、目だけはやめて」

「そのほうが有益なデータが得られそうだな。目玉のサンプルは別の個体から採ることにするか」

 イケメンは袋ごと、シュークリームにかぶりつこうとした。

「ちょまっ、ビニール袋は食べられないわよ。開けるの」

「開ける?」

「貸し……その前に、両手自由にさせて」

 両手を固定していた器具があっさりと外れた。

 そして差し出されたシュークリームの袋を、ぴっと開けてやった。

「はい」

「なるほど、外皮は食べないのか。では改めて……ふむ、不思議な味と食感だが、悪くないな」

 イケメンはシュークリームをふた口で食べきった。




 そしてまた気がついたら、家とコンビニの中間地点に立っていた。

「……記憶処理、してないじゃない」

 あの宇宙的イケメンに隅々まで見られたことを、ばっちり覚えている。

 もしかして本気で夢でも見たのかもしれないと、マイバッグの中を見てみると、シュークリームは消えていて、レシートだけが入っていた。

「きっと、シュークリームをコンビニに忘れてきたのね。きっとそうだわ。早く帰ってレポート仕上げなくちゃ」

 大きめの声で独り言して、私は急いで家に帰った。




 完徹したが、レポートは最後の方が支離滅裂な文章になってしまい、再提出となった。

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プリンとシュークリーム 桐山じゃろ @kiriyama_jyaro

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