奥さんと夜の散歩をした話
脇役C
第1話 奥さんと夜の散歩をした話
ウォーキングは幸福度をあげるらしい。
食後まったりとスマホを眺めていると、そんな記事が目についた。
絶えず奥さんとの幸福度を高めたい俺にとっては、なんとも有益な情報だ。
「散歩に行かない?」
誘ってはみたが、よく考えると奥さんはもうパジャマだ。
かわいいイチゴ柄である。
なお仕事着からパジャマになることをキャストオフと呼んでいる。
もうリラックスモードだ。
奥さんは迷っているらしく、じっと俺を見つめてくる。
かわいいお目めだなあ。
「パジャマでもいいよ?」
とにかく一緒に散歩に行きたい俺はそう提案する。
「さすがにこのかっこで行けないでしょ」
と奥さんは笑う。
「行こ」
そう言って、奥さんはジャージに着替え始めた。
めずらしい、と言いかけたが言葉を飲み込む。
せっかくのやる気に水をさす余計な一言が夫婦の亀裂を生むってインスタ漫画が言ってた。
俺はまだ上着を脱いだだけの仕事着なので、ダウンを着込むだけにする。
11月の入りかけ。
日中はまだまだ暖かいが、夜は冷える。
「髪の毛まとめたほうがいいかなあ」
どんな散歩をする気なんだろう。
気合が入りすぎでは?
奥さんは肩甲骨あたりまで髪が伸びている。
俺は奥さんのポニーテールが大好物である。
もちろんおろしたまんまでも、清楚系って感じでかわいいけどね!
「どっちでもいいんじゃない」
髪をまとめるのがめんどうになって散歩に行く気力がなくなってしまっては困るので、せめぎあった結果、こんな微妙な返答になった。
奥さんはよく髪留めを紛失する。
「じゃ、まとめてみる」
「よっしゃ」
「どうかな?」
奥さんはポニーテールを揺らして見せてくれた。
奥さんのきれいなうなじが見える。
「めっちゃかわいい~」
「えー、本当かな?」
外に出ると、ちょっと寒い。
「ねえ、見てみて」
奥さんが白い息を吐きだす。
「もう秋も終わりだねえ」
という奥さんの言葉に、
「寂しいね」
と答えた。
なんだかあっという間だ。
「今年はいっぱいクリスマスソング聴くんだ!」
奥さんがそう宣言する。
「11月始まったばっかなのに、クリスマスは早くない? 2か月近くあるよ」
「クリスマスはハロウィンが終わったら始まるんだよ」
「驚きの事実」
「クリスマス楽しみ!」
奥さんは寒いのが大嫌いだが、クリスマスが大好きなため、好きな季節第2位が冬である。
「準備体操しよ」
奥さんは足首を回し始める。
「散歩に準備体操いるの?」
「寒いとケガするよ」
「えー、ゆっちゃんめっちゃかわいい」
「今の発言に、どこにかわいさが!?」
奥さんがまともな発言をするとキュンとする性癖なんだ。
「どこらへん歩く?」
奥さんがそう言いながら、俺の手をつないで、そのままダウンのポケットにつっこむ。
かわいいなあ。
「自由気ままに歩こう」
「OK!」
本当に気のおもむくままに歩く。
たまに別々の道に行こうとしてぶつかったり、離れそうになって両方道を選びなおしてまたぶつかって。
ずっと他愛のない話をしてる。
「星がきれいだね」
奥さんが空を見上げて言う。
俺もつられて見上げる。
ここらへんは街灯も少なく、星がクリアに見える。
「うん、きれいだね」
東の空にオリオン座を見つけた。
本当に冬がくるんだなと思う。
星が余計にきれいに見えるのはそのせいか。
寒くなるほど、星はきれいに見えると言うから。
「こうして星を眺めるのって、記憶にないくらい久しぶり」
「たしかに」
昔は好きで眺めていたけど、全然空を見ていない。
「ありがとう。散歩に連れてきてくれて」
俺の目を見て笑う。
クリスマスソングが脳内に流れた。
俺も奥さんのことを言えないくらいにクリスマスモードになっているらしい。
今年のクリスマスも、楽しいクリスマスになったらいいな。
今年はどこに行こうか。
楽しみになってきた。
「え~、ゆっちゃんめっちゃかわいい」
「だから、今のどこにかわいい要素が!?」
「俺は常にゆっちゃんのことかわいいと思ってるんだよ」
○○○○○○
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奥さんと夜の散歩をした話 脇役C @wakic
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